CyberRebeat: 虚実均整のハッカーノベル

CyberRebeat -The Fifth Domain of Warfare-

値段 クリア状況 実績 プレイ時間
1010 クリア - 6時間
お勧め度 コスパ
★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★☆☆☆☆

ノベルゲームというジャンルはストーリーに主眼が置かれ、物語ることによって描かれるデザインをしています。このため、各ゲームの合う合わないが個人に大きく依拠することになります。
その観点では、CyberRebeatはプログラミングをやっていて、CTFをちょっとかじっていて、ノベルゲームが好きな人にお勧めしたい作品です。有り体に言えば、自分自身にお勧めしたい作品となります。

ハッキングを描く

ストーリーは一癖も二癖もあるハッカー達が巨大な陰謀に巻き込まれながらも奮闘するものです。巨大組織に立ち向かうあたりの下りなど、いくつかの描写や展開はシュタゲを感じないでもありません。
全文ちゃんと読むと6時間ちょっとと、ノベルゲームとしてはそこそこのボリュームがあります。

Haskell枠 Scala枠

ただし、このゲームは一般的なエンターテインメント作品によくいるハッカーを描いてはいません。このゲームの大体のスタンスは、冒頭のオープニングにあるキャラ紹介を見ればつかめるでしょう。この紹介では、キャラクターからは3つの情報しか得られません。いわく、好きなもの、属する領域、そして言語です。
言語といっても話す言葉では当然なく、プログラミング言語です。ヒロイン枠にはHaskell、謎の人物枠にはScala、お助けキャラっぽい枠にはRが割り当てられています。この言語の選び方を見れば、なんとなく感じるものがあるのではないでしょうか。

そのことからも察せられるように、このゲームはちゃんとしたハッキングを描いています。ハッカーが黒塗りのプロンプトの画面を前にキーボードを叩いている描写が巷ではお馴染みですが、この作品のハッカーはちゃんとソーシャルハックもして、ハッキングする際にはボットを使いツールを駆使しています。
本当のハッカー像はまた少し違うものとなっているでしょうが、多少なりとも現実に即したハッカー像を描いているといえましょう。

ソーシャルハックには気を付けよう 割とちゃんとCTFもハッキングもする

また、ハッキングに関連して、CTFもちゃんと描いているところも面白い点です。筆者が見てきた中で、最も熱くCTFを攻防戦式で描いた作品であり、そして唯一の作品でもあります。
そも、現実でもこのゲームの名前でCTFの大会を開くような方がこのゲームを作っています。

収斂する急

加えて、CyberRebeatはハッキングをしっかり描写しただけの作品でもありません。
この物語は全体を分けるならばおおよそ5章立てになる構成をしていますが、必ずその全ての章において、ルーデルもかくやというほどに急速落下に衝撃的に落とそうとしています。何なら落とせるほどの爆弾がなくても、無理やりにでも速度感だけは維持して落としに来ています。

多くの物語というのはどうしても紹介パートが存在しますし、どうしてもつなぎの物語は発生します。終わりに向けてちゃんと起承転結を作ってるつもりでも、承が退屈になってしまうことは往々にしてあります。翻ってこの作品は、シーケンスのレベルで序破急の流れを確保しつつ、さらに急をひたすら早く洗練させています。そこの徹底具合が素晴らしく、おかげで読んでいてリズムが出る上に、適度に糸を張ってくれるから中だるみがあまりありません。
記憶が定かではありませんが、さる高名な漫画家に 終わりはあっさりとすぐに引くべき との言があります。この作品は、ちゃんとシーケンスという単位でそれが成立させられている展開の組み方をしていました。

虚実均整のハッカーノベル

グラフィックにも展開にもやや粗いところはありますが、ニッチなところへの突っ込みは深く、そこにツボを持っている方なら最後まで楽しめること請け合いの作品です。