第14回ウディコン全作品レビュー - 雲間からレグルス

17. 雲間からレグルス

ジャンル 作者
ADV/RPG SEPTET
プレイ時間 プレイVer クリア状況
3時間 1.02 クリア

良かった点

  • 良いシナリオであり、それをゲーム全てが下支えしていました
    • 殊に演出面は素晴らしいです
  • キャラクターは皆個性豊かでした
  • 雰囲気の良いドット絵のグラフィックでした

気になった点

  • レベルの上げ下げが高くなるとやや面倒でした
    • 一気に上げ下げしたい気持ちがあります

レビュー

ゲームで描かれる最高の物語

ゲームはしばしば総合芸術と呼ばれることがあります。その意味するところは個人によって様々でしょうが、筆者個人はあらゆる要素が総動員して体験を形作ることをもって総合的な作品であるのだと感じています。
雲間からレグルスは、その内包する全ての要素が最大限の力で完成させた美しい物語を体験できる作品となっています。

全ての種族がレベルによって管理された世界で、最低レベルに指定された人間は、掃きだめのような星、オールドヘイブンで生活を営んでいました。
しかし、その遺跡の奥で「星の子」と名乗る子供を見つけたことから、物語の歯車が動き出します。

プレイヤーは主人公の一人であるルグを操作し、「星の子」と名乗る子供、レオの力によって様々な星を巡ることになります。オールドヘイブンの個性豊かなキャラクターの一人一人と同行し、それぞれの星を進んでいくことで、それぞれの物語が紡がれていきます。

星々にはそれぞれ特色があり、それぞれが素晴らしいグラフィックで描かれ、独特な雰囲気が醸成されています。
そういった場所ごとの景観を堪能しつつ、アイテムを拾い集めながら探索していきましょう。そして、その最後の地点で待ち構えているのは、ボスとの戦闘です。

この戦闘においては、レベルが重要となってきます。敵の攻撃の成否が、このパラメータを基準に決まってくるからです。
レベルはセーブ地点で自由に上げ下げできるため、ボスの行動パターンを理解したらメタれるようにレベルを調整しましょう。基本的に戦闘はいつでも逃げられるので、対策ができていなければ撤退もアリです。

こうして星々を巡り、各々の物語を見届けていくことで、少しずつルグとレオの物語が進行していきます。
この最後の物語を彩るのは、個性豊かなキャラクターであり、そのキャラクター銘々の想いによる物語であり、抒情的なドット絵によるグラフィックであり、オールドヘイブンを始めとした世界の雰囲気であり、美しい演出であり、そして何よりこのゲームがレベル制によるRPGであることです。

この作品を最後まで進めた時、このゲームにおける全ての要素が収斂していき、極限にまで高められた、ただ一つの物語を体験することができるでしょう。
もはやこれを語る言葉は持ち合わせていないため俗な言い方をすれば、エモいゲームがやりたい方にお勧めです。

感想

ウディコンの早いうちから何があっても絶対やるリストの一つに入れていた作品の一つ、雲間からレグルス。
バケモノハイツの頃から好みの作品を作る方だなあと思っていたので、ウディフェスのぶーん。とかもやっていました。そういえば、らすぼす養成 はいすくーる やってないのを思い出したので後でやります。

閑話休題。というわけで、期待値のハードルがまあまあに高い状態で始めたんですが、ちゃんとハードルのはるか上を飛んで行ってくれたので満足です。

とりあえずまずは世界観の話をするんですが、設定と拠点の世界が好きです。
レベルという概念によってかなり強烈な格差社会が形成された世界という設定が秀逸で、終盤に明かされるレベルというものの役割もまた秀逸です。実際にそれが正確かどうかはともかく、レオのような存在を生み出しているあたり外してもいない感じはします。

その中で最下層のレベルが住まうオールドヘイブンの空気感は最高の一言に尽きます。
帰還後イベントが映画のワンカットのように見えることに、この空気感はかなり寄与していると思います。黄と緑からなる空気がこの空間のよどんだ雰囲気をうまく表現していて、他の星の美しさに対して徹底的に対比構造にありました。
それなのに最後までやると、どの星よりもオールドヘイブンが綺麗に見えますね。この辺の、澱んだようでいてただ汚いようには見えない空気作りがべらぼうに上手いです。

それ以外の星では、ニトアロ・ニードが好きです。崩壊した世界というかポストアポカリプスっぽいのが好み。傘をさす細かさも好きでした。まあ最後の惑星も当然好きなんですが。

レベルの話に戻すと、レベルが高いと野蛮ではないことにされている世界ではあるんですが、行ける範囲では最高と言っていいレベルの世界でいじめをお出ししてきます。
そもそも、この高レベルの種族と人間は理由不明ならが争っています。結局一種族の適当な指標であって、本質的には何ら変わらないのかもしれない。それでも若干いじめっ子側が素直な気もしますね。

次にキャラクターの話をするんですが、全員魅力的なキャラクターで良いんですよね。
後で物語の話もしますが、この物語が美しいのは間違いなくキャラクターが良いからに他ならないので。
加えて、各キャラクターの物語パートもあってちゃんと掘り下げられるのも良いです。

キャラクターとしては割と序盤からドミドゥカが好きだったので、終盤の展開はより情緒が揺さぶられました。締まらない顔している人の締まった格好、格好良い。
主人公組については言わずもがな好きなんですが、いろんな展開をもってルグが一番好き。レグルス、獅子の心臓ゆえにレオのコアなんですね。

さらに、各物語に出てくるサブキャラクター、かてて加えて各星にいるモブの方々に至るまで、良いキャラクターをしているというのもあります。
星の個性と住人の個性どちらも豊かな特色があって良い。ミッドルの方々が好き。

それでは物語の話をするんですが、まあとにかく良いですね。良すぎて言語化が難しくて、レビューの最初の言葉を「良い、とにかく良い」にしばらく置いてました。レビュー書き終わった冷静な時に挿げ替えるのが狙いです。
思い浮かんだのは奇跡的相性なんですが、ネタが分かりにくいのと単純に相性の話ではないなと思ったので無難な形に落ち着いています。

ソウテン鏡は物語それ自体が良いパターンなんですが、この作品は物語に対する演出によって物語の質を底上げしているパターンです。
個人的に、個別で各キャラクターに関連する物語を進行しつつ大枠を構成するのが好みなので、この物語は好みでした。
そういうこともあって、ソウテン鏡では小説を引き合いに出していますが、このゲームはそういった別媒体を引き合いに出していません。この物語はゲームでしか在り得ないので。

各キャラクターをちょっとだけ掘り下げて、あるいはちょっとだけ成長させる物語が良くて、何より最後にオールドヘイブンに戻ってきた後の一幕が好きです。
一息ついた決着感と、次につながる引きのどちらもが映画のような空気感の中で描かれていて、最高にお洒落です。一区切りつくからちゃんと終わった気になれるし、次への期待があるから続きをやりたくなる。

そういった演出のほかにも、この物語は徹頭徹尾RPGでなくては表現しえなかったというのも好きです。
RPGそのものの話は後でしますが、とにかく最後の展開を行うにはこれはRPGでなくてはいけなかった。そのことこそが美しい作りだと感じていました。最後の戦闘、心動かされませんか。

あらゆる要素が物語を下支えして、そのクオリティも意味合いも補助しているというのが、まさにゲームでのみ体験できる感覚だなあと覚えていました。ゲームとしての物語という意味ではバケモノハイツも好きだったんですが、演出面やら諸々でこっちはさらに好きです。

物語のついでにグラフィックなどの話もしますが、良いドット絵です。ホロロンのような精緻なドット絵とはまた違った魅力があります。
記憶ギャラリーにあるようなドット絵もその星の空気感を描いていて良いんですが、各キャラクターのモーションとか、戦闘時のグラフィックとか、表情とか、色々なところが豊かで好きです。
戦闘時にレベル技に失敗すると、ちゃんとリアクションがあるのとか良いですよね。

あと戦闘中のBGMも良いんですけど、若干音量大きい気もしました。
雰囲気にはあっていて、曲としても好きではあります。

長々と書いてきましたが最後にRPGとしての話をします。
レベルの上げ下げによるギミックバトルが主で、雑魚戦もないのでイベントとみなしても良いレベルかなと思います。
ただ、漫然とやっていると結構負けるので、ちゃんと戦ってギミックを理解して、対策を立てて倒すというのが楽しいタイプです。

一応最高レベルまで引き上げていれば、ある程度ごり押しでも行けるバランスには感じましたが、ちゃんとメタったほうが楽しいし楽なのでお勧めです。
ただ、レベルの上げ下げが特定箇所でしかできず、特に後半は一気に上げようとすると若干面倒ですが、数えるほどしかやらないのでそこまで気にはならないと思います。

とにかく物語というものをゲーム表現の中で描いていたという観点において、個人的に一番好きな作品です。
最初に出てくる、言葉が落ち、それに引きずられたような星が何かへとぶつかったその瞬間から、このゲームが好みそうな直感がありましたが、まさしくその通りとなりました。

最初の演出で大体分かるように、かなり間の取り方がアドベンチャーゲーム然としているので、ちょくちょく間がある印象は受けます。ただ、多くの演出においてはその間をもって完成されているような印象も受けます。
最初の方を少しやればどういうゲームか分かるので、とりあえずやってみましょう。ADV好きならいいゲームです。

ちなみに筆者はこのゲームをぶっ通しでやったので、レビューを書くために起動するまで気づかなかったんですが、タイトル画面が毎回変わる細かい演出も入っていました。タイトルに演出が入るゲームは良いゲーム。神話解体論とか。

ニアトロ・ニード が好きな理由の半分くらいはレオが傘を差しているからかもしれない