第14回ウディコン全作品レビュー - HOLLOW LONGING

30. HOLLOW LONGING

ジャンル 作者
探索ADV 学世 初
プレイ時間 プレイVer クリア状況
5時間30分 1.03 全実績

良かった点

  • グラフィックが美しく、世界観を余すことなく表現しています
    • キャラクター、景観ともに群を抜いた美麗さをしています
  • 美しさと残酷さの対比が良い世界観でした
  • 細かいイベントも充実しています

気になった点

  • 中盤あたりはほぼノベルゲームです
    • 世界観に入りやすいという良い点もあります

レビュー

美しき世界、残酷な世界

絵あるいは画というものは心を揺り動かし、感動させる力を持つものの一つです。
美しくあるものは美しく、惨くあるものは惨く、そう訴えかけるようなその力により、強く銘記させられることから逃れることはできません。
HOLLOW LONGINGという作品が持つ力は、間違いなくその類のものであると言えるでしょう。

このゲームのベースは探索アドベンチャーとなっていますが、物語の比重が大きい作品となっています。
いくつかの探索要素や謎解き要素もありつつ、基本的には物語を体験していくことになります。

しかし、物語を体験する上では、その探索要素は無くてはならない存在です。
精緻なグラフィックで描かれる美麗な世界を探索し、息を呑むような世界の美しさに触れることで、その世界に隠された残酷さをより強く鮮烈に感じ取ることができるでしょう。
美しいものが美しくあることに説得力のあるグラフィックで表現するからこそ、その対比構造を描く物語はより強く心に残ります。

加えて、精緻に描かれるのは世界だけではありません。登場する個性豊かなキャラクター達もまた、美しいグラフィックで描かれています。
それぞれの抱える想いや機微もまた、繊細なイラストによってより強く印象に刻み込まれていくことでしょう。
美しく、そして残酷な世界における彼らの物語は、そういった高い表現力に裏打ちされて彩られていきます。

また、探索要素は寄り道としても充実しています。アイテムを拾って、それを仲間に渡すことで様々なイベントを楽しむことができます。
キャラクター達のやり取りを眺めたければ、積極的にアイテムを探してみましょう。

この作品は、徹頭徹尾美しいものを美しく表現した作品です。
美しくあることに意味がある美麗なグラフィックと、それに調和した世界観に浸りたい人にはお勧めの作品となっています。

感想

ウディコンの早いうちから何があっても絶対やるリストの一つに入れていた作品の一つ、HOLLOW LONGING。
11回だったかのウディコンでやったPRESS STARTが良かったのでやりたいと思っていました。

筆者は基本的に物語に感動する性質なので、あんまりグラフィックで感動はしません。
ドット絵で言うと、FF6のオープニングの魔導アーマーが雪原を歩むあたりは感動した覚えがありますが、あれも名曲ありきのことかもしれないと感じています。
その経験の中でも、このゲームのグラフィックは目を瞠るレベルでした。あんまりスクショを取らないので、こういう紹介文を書いている時に必要であれば毎回撮り直しているんですが、このゲームはスクショを取りすぎていて何を載せればいいのかという感じです。

グラフィックが良いというのは大まかに分けて、マップなどの景観と人物画のような一枚絵の二つに分類可能だと思っているんですが、この作品はどっちも飛びぬけて良いです。
片手落ちということはなく、両輪ともに抜きん出て素晴らしいという強力なバランスをしています。

景観の素晴らしさは言わずもがなで、拠点となる館の各部屋の特色といった細かいレベルでもそうですし、電車で行けるエリアのシンプルな単一マップとしての美しさもあります。
特に途中にある城は景観的美しさが極致に近く、そこで発生するイベントも相まって印象に強く残っています。マップに光が落ちている表現が異常なレベルで上手い印象。

この作品は物語的な意味もあって、世界が極めて美しくあるべきなんですが、その表現を完璧に履行しています。世界はかくも美しい、ということをグラフィックで余すことなく表現できているクオリティでした。
そして、そういった美しさがあるために、対比された無機質さや不安定さの表現も際立つように感じます。

景観とはまた違うんですが、料理のグラフィックも良いです。
寄り道要素で拾ったアイテムを使って料理ができる仕様がありますが、一品一品シナリオと共に料理がお出しされます。そして、そのどれもクオリティが高いです。夜にやるとお腹が空く。なんでゲームを遊んでいて飯テロを食らうんだろう。

他方、人物のグラフィックもかなり精緻で、最初の着替えでわざわざ描きにくそうな服に着替えるあたりは凄いなと思いました。何が何でもフリフリしたものをつけようという意志を感じる。
ただの一要素である着替え要素にまで細かく描き込まれていて、このレベルで全部作り上げているのはもはや恐ろしいレベルです。

加えて、ここぞという場面で出る一枚絵の美しさはさらに突出しています。
景観でもそうなんですが、光の使い方による美しさの表現が異様に上手いので、迫力とか神々しさが自然に表現されています。思わず手がPrtScを押してしまう。
スチルのギャラリーが見つからなかったんですが、無いのは勿体ないと思いませんか。ウィンドウが消えるタイミングを狙ってスクショするの、案外難しいんですよね。

筆者個人が好きな場面は、シバが覗き込んでいるシーンとか、集合絵ともなっている歓迎会とか、セカイの初登場シーンとか、トワが決めているシーンとか、最後のシーンとか、枚挙に暇がありません。
特にセカイのシーンは、光の使い方とそれが表現する神々しさというか神秘性のレベルが高すぎて、半ば口角が上がりながらスクショしていました。

そして、精緻に描かれた美しいドット絵とこの上なく良い相性のシナリオ、というか世界観も良いです。
楽園という世界とその欺瞞はこのドット絵で描かれるからこそより良く対比されるものと思います。
圧倒的に美しい湖を前にするからこそシバの気持ちが理解できるし、そこでのヨイチの反応にも意味が出てきます。本当に美しい世界を描いているからこそに可能な演出でした。

また、その世界で生きているキャラクターが良いタイプの物語でもあって、それぞれのキャラクターが魅力的なことが、シナリオにおける良い牽引力になっています。
主人公がシバなのも良いですね。まっすぐの純粋さがまごうことなき主人公。筆者は苦労人が好きなので、なんやかんやコヨミが一番好きです。セカイも苦労人っぽいので好き。

話し方とか立ち居振る舞いの安心感はキラが一番高かったので、最後の突入時についてきてくれない時点で嫌な予感はしていました。
キラがいればと思いつつ、キラがいるとキセツの解決法しか取れないケースもあるからなあという気持ちにもなります。あれは仕方ない部分もあるんですが。

ゲーム性で言うと、薄っすら寄り道要素のある探索ゲームという感じで、中盤くらいは探索ゲームではなくてもはやノベルゲームのそれでした。
ただし、中盤のあの展開があるからこそ、色々と世界観に入り込めるところはあるので、やはりコメントにある通り物語重視の作品なのだと思います。
他方で、城についてはだいぶ探索ゲームの趣があります。案外難しい。

実績とかイベントを見るためには、それ以外でもある程度探索が必要なんですが、景観が美しかったので散歩しながら見つけられて良かったですね。
エンディングを見た後も回収可能なので、余韻に浸りながら色々と回収してイベントを見ていました。
ちゃんとダッシュ機能も付いているので、探索自体はそこまで苦ではありません。

また、エンド分岐が割と多いんですが、ハッピーエンド以外では何もかも全てが悪変する展開もあって、世界観も相まってなかなかの気分になれます。
何もかもがだめになって、何もかもが救われないからこそ、色々なものがきちんと収まったエンディングが映えますね。

なお、タイトル名はプレイする前は虚ろに憧れることを指しているのかとぼんやり考えていましたが、どうやら虚が憧れるものを指していそうです。
というか、ウロが憧れるものとしてのシバですかね。そうありたいというよりは、そうあれれば良かったのにという雰囲気がありますが。
というか、ざっくりエンドを眺めていたらEND5がそれっぽいタイトルでしたね。気づかなかった。

これが一番好き