第14回ウディコン全作品レビュー - The Villagers side story

53. The Villagers side story ~僕たちの命、勇者様に託します~

ジャンル 作者
RPG Laplace
プレイ時間 プレイVer クリア状況
4時間 1.02 クリア

良かった点

  • 村という共同体に愛着を持てるゲームでした
    • 一人一人の名無しのモブに至るまでキャラクター付けがなされています
  • 戦闘バランスは良好でした
  • 村人という視点が一貫して保たれたストーリーでした

気になった点

  • 光と闇のギミックは見にくいだけで面白みがないかもしれません

レビュー

村人は生きる、その日が来るまで

ゲームにおける勇者とは、世界を巡り、魔王と渡り合う実力を身に着け、そして全ての人々の期待を背負って強大な悪を打ち倒す存在です。
そういった世界における勇者以外の存在とは、勇者という希望に託し、大きな趨勢にかかわることはできずとも、確かに日々を生きている人々と言えるでしょう。
The Villagers side story ~僕たちの命、勇者様に託します~は、徹頭徹尾、そういった村人の視点に寄り添ったRPGとなっています。

このゲームでは、主人公たちは村というコミュニティを中心に、異変の調査をしていくことになります。そして、調査の過程で、主人公とその属する村は強大な敵のたくらみに巻き込まれてしまいます。
勇者であれば道程の一つとして立ち寄る箇所に過ぎない小さな村ではありますが、主人公たちにとってはそれが全てといってもよい拠点です。
村人という立場で出来得る限りのことをして、脅威に対して精一杯に抗うことになるでしょう。

脅威と戦う戦闘システムはRPGとしてはオーソドックスながら、毎回異なるメンバーで挑むことにより新鮮な気持ちで戦いに挑めます。
加えて戦闘バランスは良好であり、ボスは十分に強いパターンをもって行動してきます。きちんと強力な行動を捌いて、上手く倒していきましょう。

このゲームの圧巻は、村人という視点をもって村を拠点とすることで、村に愛着が湧いてくる点にあります。
名もないモブですら一人の通貫したキャラクターとして描写され、人々の共同体としての村が物語の中でつぶさに描かれることで、ただの小さな村であるにもかかわらず強く惹かれていくことになるでしょう。
その村に襲い来る魔の手に、時に無力感を覚え、時に絶望しながらも、それでも周りの人々との生活のために抗い続ける物語は、確かに村人の物語として銘記されること間違いありません。

村人という視点でRPGを遊び直してみてはいかがでしょうか。

感想

村人の視点というのを徹底的に描くことでしか得られない物語というか世界というか、そういうものを感じられる良いRPGです。
今ウディコンは良いRPGが多いので本当に助かります。楽しかった。

漫画などで村人をベースとした物語を読んでは、結局勇者めいたことやるなあという気持ちになっていたので、こういう冒険はするけどあくまで村人として戦う人々の物語というのは良かったです。
勇者に比べればあまりにも無力な村人という存在でも、その手の届く範囲の生活を守ろうと、各々が懸命に生きる様を描いています。

当然名前がついている主要キャラに思い入れが出るのはそうなんですが、それ以外のただの村にいる一モブに対してさえも村人の一人としての愛着がわくのは面白い設計だなあと感じていました。
基本的に村をベースに冒険に行く形式であり、あくまで村という拠点があるからこその愛着なのだろうと思います。勇者の物語であればただの通過する一つの村に過ぎないところですが、この物語においては何よりもフォーカスされるものとなっています。

一度村という拠点そのものは動くことになりますが、人々の生活拠点というかその集合体的な存在であるところの村は最後まで継続して存在し続けるので、最後までこの村全体に愛着を持ち続けることができました。
村というのは拠点としての地理的なものではなくて、ゲーム的には名もつけられていない村人たちも含めた一つの共同体としてのものであったということを強く覚えています。

事実、全く必要がないんですが村人一人一人にわざわざ話しかけに行ってから出発するようにしていました。ちゃんと一人一人に人生があるのを感じられる。
顔グラフィックすらついていないモブですらも、ちゃんと一貫性をもって描かれている丁寧さがあるからこその良さだと思っています。

それと同じくして、ややコメディ調のイベントの数々も良い味を出しています。
依頼から出るサブイベントもそうですが、逢瀬を見た後に鉄と化した後に新技を覚える流れとか、レオンの家にどんどん人が増えていくところとか、それでも彼女が寝ている時はきちんと外に出る細かい配慮とか、そういう細かいイベントの積み重ねがこのゲームのコメディとしての良さを出しています。MVSとか好き。

その上で、メインイベントとしては最ものんきな話をやった後にあのイベントを差しはさむからこそ、コメディからの緩急でより質の高い物語に仕上がっています。
その上で、ここからの物語で村人たちに勇者的活躍をさせることもできるとは思うんですが、ほとんどそういうことをせずに、脇役も含めて徹底的に勇者以外の存在の戦い方を描いていたというのが好みでした。

地上の人をさらうなどの行為をしつつも逆転の一手を模索していた王であったり、間違ったことであろうと自分の家族を守るために行っていた研究者であったり、非道の存在としてすら描けそうな人々も等しく戦った人々として描かれているのも好きです。
彼らもまた、何らかの共同体を守るために奮闘したという意味では、村人たちと立場を同じくするものかもしれません。

そろそろ戦闘の話をするんですが、戦闘バランスは割と良く、バフデバフが重要なタイプです。難度の高い戦略性は求められていませんが、ボスのギミックに上手く対応できないと負けるくらいの塩梅です。
ボスに負けるとギミック解説コーナーが始まり、それを聞いた上でリトライできるのでかなり親切だと思っています。リトライ時にはある程度のイベントスキップもあるので再戦もやりやすめです。

その時々で仲間になるキャラの性質が異なるので、ちょっとした戦い方の変化も生まれるので、大ボスのギミック性も含めて飽きることなく遊べる印象でした。

一つだけ気になる点があるとすれば、自警団の人たちは戦い抜いていた割には初期装備がしょっぱいですね。こればっかりはゲーム都合上仕方がないんですが。そもそも初期レベルが低すぎないかという話もできてしまうので、あんまりメタ的には考えないほうが良さそうです。

また、ロケーションごとに異なるマップギミックが使われるなど、とにかく見目にも遊びにも飽きないように工夫が凝らされている印象も受けます。
ただ、あの光と暗闇のギミックは正直見にくいだけではありました。

それにしても、あの雪ステージの岩に隠された道は何だったんでしょう。想定プレイ時間を見た感じでは、この先にもう一波乱あるのかと思っていました。
なお、想定プレイ時間が7時間からになっていますが、そこそこ寄り道した気もする筆者で4時間なので、長く見積もってもその辺ではなさそうな印象です。あんまり長いと敬遠されがちな気もするので、そこは4時間程度と書いておいて良かったんじゃないかなと思う次第でした。