第15回ウディコン全作品レビュー - 怖がらないでよ僧侶さん

05. 怖がらないでよ僧侶さん

ジャンル 作者
探索ADV WeakRabbit
プレイ時間 プレイVer クリア状況
4時間 1.00 全ENDクリア

良かった点

  • 行動や選択肢に応じたバリエーションが豊富です
    • 徹底的にいろいろなネタが仕込まれています
  • 一度見たエンディング行きの選択肢を選ぶと適切な場所まで戻してくれるので周回が捗ります
  • キャラクターの個性が良かったです

気になった点

  • ややエンディング回収に対する諸々の導線は弱いです
    • 良い意味での古典的ADVっぽいとも言えます

レビュー

めくるめく分岐ADV

怖がらないでよ僧侶さんは、様々な分岐を経て様々なエンディングを迎えるアドベンチャーゲームです。
魔王の部屋の目前までたどり着いた勇者一行は、そこで最大のピンチを迎えます。パーティの一人である僧侶が怖がってしまい、先に進めなくなってしまったのです。勇者であるリュウジを操って、上手く選択をして僧侶を説得し、魔王の元へと向かわせましょう。

プレイヤーが挑むのは、いくつもの選択肢とそれを踏まえた分岐です。豊富に取り揃えられた行動から様々な分岐を試し、様々な未来を迎えていくことになるでしょう。
その多様な選択肢に相応しく、そこから派生していくエンディングのバリエーションは多彩です。コメディ調の多種多様な終わり方を迎えながらも、僧侶を説得する道筋を模索していきましょう。

そして、そういった数多くの分岐に対し、とにかくリアクションが網羅的に用意されているというのが、このゲームの圧巻となります。たとえエンディングに関係ないような小ネタであっても、全てがケアされてネタを返してくれる設計となっているため、色々と試したくなること請け合いです。
なお、一度見たエンディングは直前の選択肢からやり直したり、最初からやり直したりといったことが可能なので、周回も容易となっています。気軽に様々なパターンを試していって、エンディングリストを埋めていくのも一興でしょう。

この作品は、強烈なキャラクターと強いコメディ色が人を選ぶように見えて、その実は様々なエンディングを経て物語として締めてくる王道の風格も湛えたADVとなっています。色々な分岐を巡り、物語の終わりまで突き進みましょう。
RPGで同じNPCに何度も話しかけるような人にお勧めの作品です。

感想

選択肢分岐型ADVに付きまとう組み合わせ爆発にものすごく対応されているADVです。
魔王の妄想で44パターン全て用意した上にコンプリートイベントがあるあたりからも分かる通り、とにかく遷移する分岐を網羅してネタが仕込まれています。
後半パートは本ルートでそれが発生し、手抜きENDと呼ばれているものが用意されていますが、これも全部名前変えたりネタが突然突っ込まれたりと手の込んだ手抜きを披露してきました。イベントがないだけで手抜いてはないんですよ。

そうして用意された各種分岐に対するネタの豊富さも凄まじく、選択肢ごとの行動バリエーションもかなり広めです。まず「アホなテンションでゲームを始める」かどうかから聞いてくるゲームは中々ありません。実質ゲームが始まる前から分岐が発生しています。
このアホなテンション、じゃあ通常のテンションはアホじゃないのかと言えば、通常のテンションでも十分にアホです。ただ、アホなテンションはそれを上回るアホなだけです。上には上がいるんですね。

加えてミニコーナーで漫才始めるし、エンド終わったら度合付けコーナーが始まるし、とにかくネタが詰まったゲームです。ハリ抜いたらケーンあたりで笑ってしまったのはある意味悔しいかもしれない。
雑談コーナーで誰を主人公だったかを何回か選んでいたら、順番まで考慮して話し始めた時はどこまでやってるんだこのゲームと思っていました。おまけにまでパターンが仕込まれています。

しかも、ただ分岐が用意されているだけではなく、その様々な分岐を効率よく巡れるシステムも良く出来ています。すでに見たことのあるエンディングに到達した時、直前に戻ることもできますし、最初の選択肢から始めることもできます。分岐チェックには前者、いったんリセットしたい時には後者が便利でした。
特に序盤におけるED回収は結構難しく、色々な分岐を当たっていく必要があるんですが、この仕組みのおかげで効率よく回ることができたように思います。

そうして条件を満たした先のシリアスルートともいえる後半ですが、シリアスルートっぽい始まり方をしておいてほとんどの場合はシリアスではありません。やっぱりコメディです。あのフリからまだコメディが見れるあたり、コメディの底が見えない。
しかしそういったコメディ調のEDすらも伏線めいた回収をしつつ、ちゃんとシリアスルートに合流させている手腕は剛腕と言って良いレベルでした。膨大な量のネタで押し流すことで伏線を巧妙に隠しています。

その中で最後のTrueへの道筋はこれまでのすべてを上手く合流させつつも、それぞれの芯というかアレなところは最後までブレさせていないのも好きです。
主人公は最後まで役立たずに近い状態でも、その中でやれることをやり切りますし、毒は毒ですし、ゲンは自分の最強の奥義にレイカさんの名前つけちゃう辺りにちゃんと気持ち悪さが残ってますし、レイカさんは何だかんだずっとレイカさんです。
それだからこそ最後のイベントバトルの一つ一つの行動に価値が与えられ、戦闘が物語として構成されているように感じます。最低のパーティ、言い得て妙でした。

各ENDの話もやっておきたいのでやるんですが、全部インパクトがあります。その中でも毒々サイダーあたりのプレイヤー置いてけぼり感が好きです。理解できない人たちが、理解できないことをずっとやっているカオスがそこにあります。漫才もなんだかんだ好き。
ノリそのものは人を選ぶと言って良いほど振り切れているとは思うものの、筆者は割とこのノリが好きなので大いに楽しんでしました。そもそもこのノリが好きでなければ魔王の44パターンを試しません。

その上で、この数多あるインパクトのあるENDに対してシリアスルートの特殊ENDが引けを取らないように、特殊演出を付けて差別化を図っているのも良いところです。明らかに空気感が違うというところも察せられますし、ちゃんと演出に入ったんだなということが分かります。

このゲームは狂人が多いですが、抜けているのは毒に見せかけてゲンなのかなと思っていました。No.13 のENDとか、端々にその片鱗が見えます。その根っこというか、回答編みたいなパートである彼の過去はそういう意味でも印象に残りました。
このゲームにおいては、レイカや毒は立ち位置的に、リュウジはメタ的な意味でも主人公というか主要キャラとして動いていますが、ゲンがその中では役割的には一つ後ろにいるところがあります。しかし、その分を補って余りあるインパクトで主要キャラに割って入って印象を残しています。素晴らしい気持ち悪さだ。

ADVとしての話をもう少しすると、前半は完全な選択肢分岐型にした上で、後半は探索とアイテム使用に近いプレイ感にきっちり分離しているあたりが作り込まれているなと感じていました。
前半と後半でプレイ感が違うので、シリアスルートに入ったなという印象以外でも新鮮な気持ちで取り組むことができます。この辺の丁寧さが最後まで徹底されているからこそ、安心してネタの濁流を楽しむことができるゲームです。

繰り返しになるかもしれませんが、後半パートも分岐による組み合わせはかなり用意されています。そして、その組み合わせ全てに対してちゃんと反応が返ってきます。
前半パートで数多の選択肢を通して培われた、何をしてもこのゲームはちゃんと先回りして反応を用意していてくれるという信頼感が、後半パートで探索を色々として見るモチベーションにもつながっています。ADVを楽しくやるには、何を調べても何かリアクションしてくれるだろうという信頼感って大事ですね。

ともかく後半パートまでが神髄なので、前半の分岐パズルを抜けて後半に辿り着いていただきたい気持ちはあれど、割とちゃんと分岐を追わないと入れないのが難しいところです。一応ゲーム外ですがヒントはあるので、多分後半パートに入るのはそんなに苦労しないはず。