第16回ウディコン全作品レビュー - 勇者不適伝

01. 勇者不適伝

ジャンル 作者
RPG すたーあいす*
プレイ時間 プレイVer クリア状況
4時間 1.11 全END

良かった点

  • 物語や世界観と上手く調和の取れたシステムでした
  • 様々な点で早めに対処することを誘引する戦闘システムとなっています
    • このため、序盤から意識的にテンポ良く戦えます
  • 良く構成され描かれたシナリオでした

気になった点

  • シナリオ中に使われる単語に違和感を覚える部分がありました

レビュー

和解の旅路

現実的な作品であるという言葉は、シニカルにあるいは斜に構えたように受け取られることもあります。一方で、勇者不適伝もまたある種の現実的な面を描いた物語ではありますが、それは自身の正しさを常に見つめ、降りかかる艱難辛苦を乗り越えていく現実を見せつけてくれるものです。
シニカルとは対照的なその作品性の中で、現実と戦っていく現実的な物語を味わうことができるRPGであると言えるでしょう。

勇者不適伝はゲームとしてはシンプルな設計であり、ノンフィールドのダンジョンを攻略しつつ町を巡り、目的に向かって進んでいくオーソドックスなRPGの形式を取っています。
しかし、和解を目指す彼らの戦闘は一風変わったものです。和解を目指す以上、彼らにHPを削り切って倒すことは許されません。それぞれのスキルを上手く使い、HPではなくIFと呼ばれるパラメータを削って、相手の戦意を削いでいくことが肝要になります。
ただし、HPを半分以上削ることで相手の攻撃力を落とすこともできるので、時にはダメージを与えることも戦略の一手となり得ます。相手の行動パターンやスペックを鑑みて、適切に対処していきましょう。

そうして戦いをこなしていくことで和解を進めつつ、ダンジョンの最後に待ち受けるボスとも戦うことになります。ボスは強力な性能を秘めているため、相応のステータスとスキルを持たなければ太刀打ちできないでしょう。
ステータスの上昇およびスキルを習得していくためには、道中に遭遇する魔族と和解を続け、レベルを上げていく必要があります。積極的に和解を目指していきましょう。
また、ボスと戦う場合は、取り巻きの魔族と早めに和解するのも重要です。IFを削り切った魔族はこちらを回復してくれるようになるため、相手の手数が減る上でこちらを利する形ともなるためです。積極的に和解を仕掛けていきましょう。

そして、様々なダンジョンを攻略しながら和解を進めていく旅の中で、主人公とその仲間たちのシナリオが紡がれていきます。
敵対する魔族との和解という道を選択した主人公の前には、様々な困難と試練が立ち塞がっていきます。綺麗事だけでは済まない世界の中で、苦しみながらも懸命に初志を貫徹していく姿が克明に描かれています。
そうした困難の果てに宿命の敵とも言うべき魔王と相対し、主人公が何を思いどう行動するかを見届けるためにも、物語を進めていきましょう。

感想

色々と特殊なRPGでした。一番特殊なのはほとんどいつでも主人公が上裸になることができて、その会話差分が無数に用意されていることなんですが。個人的には楽しかったので話しかけまくったんですが、どこからこのよく分からない執念が出てくるのかは分かりません。
それをおいても会話差分はそこそこあって、ちゃんとストーリー進行と共に会話の変わるキャラクターがいます。たまに戻って話しかけるなどしていました。

RPG、ことに戦闘面で見ると、HPがIFになって、本来のHPが特殊パラメータに挿げ替えられることで面白い仕組みになっています。
ある意味ではパラメータ名のラベリングを変えただけではあるんですが、これによってパラメータに対しての説得力が生まれています。HPを減らすと攻撃力が減る、でもやりすぎるとダメというのが分かりやすくなっています。
また、シナリオとの連関性も同時に担保されていて、ストーリーにシステムを融和させる役割も果たしていました。

加えて個人的に面白かったのはIFを削り切ると仲間になるあたりで、これは戦略的にも幅を持たせています。敵をスピーディーに処理することのメリットは当然手数を減らせるところなんですが、このシステムにより、それに加えて少量の回復が得られるというインセンティブも生まれているためです。
3体からの同時攻撃は特に終盤は致命傷につながりかねないので、いかに素早く敵を説得するかというスピード戦と、どこまで味方の被害を回復させるかという駆け引きが生まれています。いくら敵を早期に説得できても、味方に戦闘不能が出るとそれはそれで苦しいので、適度なバランスが保たれている印象でした。

なお、HPを下げると攻撃力が下がる仕様もあるので、HPをひとまず削って耐えやすくする、みたいな戦略も取れそうではあったんですが、筆者は結局それをしていませんでした。大体のケースは素早くIFを削った方がトータルの被害が抑えられそうな印象を受けたためです。思ったよりもHPが多い。
また、プレイヤーサイドにHPへ大きく干渉できるキャラが中盤まで現れないので、この恩恵を受け取りに行くハードルが高いのも一因としてありそうです。よほど強く挫折するか、強力な誘導がない限り、序盤にやらなかったことを終盤でやり始めることはないので。

後は、細かい個人的に好きなところとして、最後にSP最大技を大盤振る舞いさせてくれるところがあります。
ゲームのシステムの都合上、最大技は特定キャラクターを除けばあまり使える機会がなく、実際に最終戦に至るまで使わずじまいで進めていました。そして、そこでちゃんと日の目を見る舞台が用意されていることに感心しました。心残りなくラストバトルを終えられます

シナリオは個人的にはだいぶ好きで、予定調和や綺麗事を描かないで、なるたけ主人公の心を折ってやろうという気概を感じます。幾人かの周りのキャラクターの助けがなければ、実際にへし折れてそうな勢いはありましたね。
なんとかなりそうなところに、どうにもならないものをねじ込んでいく話と、それでも抗う人々に人間讃歌を見るタイプには刺さる作品です。平たく言えば筆者に刺さるタイプ。

ただ、序盤から中盤にかけてはワードの選択で妙に引っかかることもあり、若干没入感が削がれるきらいもありました。是が非でもとか催促の使い方とか、重視的、需要性あたりの言い回しとか、統治権の主体が島であるという規定の仕方とか、細かいところで意味は伝わるけれど、表現的にモヤっとするポイントがそこそこある印象です。権利主体が島、ある種のアミニズムっぽい。
ただ、終盤にかけての盛り上がりの展開ではその辺が無かったのか、単にシナリオが良いから気にならなくなったのか、言葉に引っ掛かることはなくなりました。体験としてのピークではこれらの引っ掛かりがなく、最後まで没入して楽しめたのは良かったです。

終盤のひっくり返し方も個人的には満足していて、さすがにあからさますぎるから素直にリュウセイを持ってこないだろうとは思っていましたが、ちゃんと理由を付けた上で綺麗に裏切ってきたので良かったです。
最終盤の展開自体も良く、その選択に対して少なくない被害が発生することが双方のエンディングを見ると分かります。魔王が消えないルートでは1割が2割に増加し、それぞれの生死や容態に変化が生じるので、何が正解かを定めるのが難しいところとなっていました。そうした中で、選択はあくまで神に委ねられるという形を取っています。そして、その神というのがほぼ即ちプレイヤーではあるんだろうなとは思っていました。すなわち、プレイヤーが魔王を許すかどうかに帰結します。
最後に決断する主体がプレイヤーであって主人公たちでないあたり、主人公たちの思想そのものは決してプレイヤーのそれとは混じらないことが強く感じられて良かったです。

キャラクター造形としては兄を失わせしめる直接的原因であろう魔族などの対象に対して、何の恨みも抱いていないかのような振る舞いをする主人公がさすがに聖人にすぎやしないかという気持ちはあります。特殊なバックグラウンドがあるわけではないので、根の根から善人というかそういう性格なんだと思います。そして上裸になるのは抵抗がない。解釈にノイズが混じりましたが、この造形故にプレイヤーが感情移入するタイプの主人公というよりは、物語を導く主人公という印象を受けました。ドラクエよりFFっぽい。
そして、そういう造形であることからも、前述のプレイヤーの決断に委ねるという切り離し方が良い設計に思えます。さすがにプレイヤーがその決断を決めるには、あまりにも同一視しにくい主人公ではあるので。

後は、シナリオとは直接関係ない細かい好きなところとして、いじめっ子が改心すると接頭辞が元いじめっ子になっているあたりの細かさです。こういう細かいところのフレーバーがそこかしこにあるので、活字中毒の身としても色々調べて楽しんでいました。
なお、その過程で出てきた魔物と魔族の表記違いがあるのは若干気になっているんですが、意図的なのか表記ゆれなのかは微妙なところに感じます。あんまり使い分けている印象はありません。なお、このレビューおよび感想では魔族に統一していますが、特に意味はありません。雰囲気です。

理想を描いて達成しつつある青少年期の万能感と、それが粉々に砕け散るところからの再生という物語を、半ば米澤穂信さんのせいで好んでいるので、シナリオとして個人的に好きな部類に入る作品でした。
かといって単に露悪的なわけでも、過度に絶望に叩き込むでもなく、あくまでもベースを調和の物語として描いているので、読後感は爽やかなものとなっています。いくらかの犠牲は発生していますし、それがしこりにならないかと言えば微妙なラインですが、いなくなってしまった人たちのことを時々で良いから思い出すことになる世界へと進んでいくんだろうなという感じがしました。