第16回ウディコン全作品レビュー - 箱庭ドールメーカー

15. 箱庭ドールメーカー

ジャンル 作者
すごろく×デッキ構築育成RPG こよる
プレイ時間 プレイVer クリア状況
10時間 1.1.0 エンドロール

良かった点

  • システム同士の親和性が高い作品でした
  • 状態スロットの押し出しを軸に、高い戦略性を持つ戦闘が楽しめます
    • それに向けたドール育成によるパーティー構築もまた戦略的に挑める課題となっています
  • 個性的なボスを攻略していく面白さがありました

気になった点

  • 過去に育成したドールがほとんど無駄になるような印象を受けました
  • 育成に時間がかかるため、新規のドールに手を出しにくいきらいがあります

レビュー

状態異常を制する者が戦いを制す

箱庭ドールメーカーは、ドールを育成し、すごろくライクなステージを攻略するRPGです。
ゲームの構成は主に、ダンジョンによるドールの育成と、そのドールを運用したフィールドの攻略に分かれます。

まず、ステージを攻略するにはドールを育成していく必要があります。
ドールの育成は、素体を決めて、ダンジョンに潜り、敵と戦いレベルを上げ、スキルを習得し、ダンジョンをクリアすることで完了となります。こうして、そのダンジョンで獲得したレベルとスキルを備えたドールを使えるようになります。
すなわち、育成のためにはダンジョンで効率良く敵と戦いレベルを上げつつ、スキルを習得していく必要があるわけです。

ダンジョンはそれぞれクリアまでの階層と、所要ターン数が決まっています。この中で、ターンを消費してダイスを回してマスに止まりイベントを起こしていく、すごろくのような構成で進んでいくことになります。
敵シンボルに接触すれば戦いになりますし、宝箱に接触すればスキルやアイテムが手に入ります。ダイス目というランダム性を上手く御しつつ、効率良くマスを巡っていきましょう。

さらに、成長をより加速させるためには、敵と戦った後にキャリーオーバーを行うという方法を取る必要があります。キャリーオーバーは3回まで行うことができ、その間に獲得経験値を徐々に引き上げる効果がある一方で、キャリーオーバー中はHPを回復する休憩コマンドが使えなくなります。
これを上手く活用し、可能な限りキャリーオーバーし続けてから最後に強敵と戦うことができれば、大きくブーストされた経験値が手に入ります。リスクはそれなりに高いですが、強いドールを育成するためにも挑戦してみましょう。

こうしてダンジョンを上手く活用し、ステータスとスキルを育成したドールによってパーティーを組んで、フィールドに挑むことになります。
フィールドもまたダンジョンと同じくすごろくのような構成となっており、基本的なルールはダンジョンと変わりません。ただし、レベルを上げることによるステータスの向上は、前述で育成したステータスに依存するものになります。そのため、きちんと育成していないと強さにキャップがかかりますし、育成していてもフィールドでレベルを上げないと十全の強さとはなりません。
フィールドにおいても、上手くマス目を巡回し、効率よく成長していくことが大事となるでしょう。

上述の通り、育成、攻略ともに立ちはだかることになるのは、敵との戦闘によるレベル上げです。そして、その戦闘を有利に進めていくためには独特かつ戦略的な戦闘システムを理解する必要があります。

戦闘画面

戦闘においてまず重要となるのは、育成で習得したスキルです。スキルは10個まで習得可能であり、戦闘開始時にその中から4個のスキルがランダムに配られます。上記の例では、攻撃スキルが3つ、スラッシュが1つ選ばれた状態です。
こうして配られたスキルを使うには、素早さに依存して蓄積するAPを消費する必要があります。上記で言うと、50APを消費すれば攻撃ができますし、75AP消費すればより強力なスラッシュを発動できます。
こうしたスキルの発動タイミングは完全にプレイヤーに委ねられています。短期決戦を仕掛けるためにAPを全て消費して攻めるという手もありますし、APやスキルを温存し、次の行動に備えるという手もあります。その時々の状況を見つつ、柔軟に対応していく必要があるでしょう。

なお、覚えていくスキルのタイプは、個々のドールによって特徴があります。その傾向はドールの装備系統に依存しており、オーソドックスな攻撃スタイルの剣、バフを盛れる扇、守りを主体とする盾などから、戦略をもとに選択していくことになります。
また、同じ装備でもドールごとに異なる部分はあるため、気になるならば試してみるのも一興です。どんなドールを選んでパーティーを構成するか、といったところからすでに戦いは始まっています。

加えて、戦闘を進める上で欠かすことができないのは、状態異常とそれを管理するスロットという概念への理解です。
バフデバフにかかわらず、状態異常は全て最大5個からなるスロットで管理されており、5個を超えると古い状態異常から消えていきます。上記の画面では、敵に攻撃低減のデバフと、攻撃強化のバフが入っています。ここに状態異常を4つ積むと、一番古い攻撃低減のデバフが取り除かれるという次第です。
強力なバフを5個重ね掛けすることで絶大な火力を得ることもできますし、相手に5個のデバフを重ねることで相手のバフを全て取り除くといった芸当も可能です。攻防両面において非常に重要であるため、常に彼我のスロットを確認し、上手く活用していきましょう。

ドールを軸にした育成システムと、育成したドールを用いて攻略に挑むフィールドという二重のデッキ構築システムのようなデザインが特徴的な作品となっています。
この斬新な設計に、多様な戦略が生まれる戦闘システムが取り入れられることにより、無数のドール育成戦略が生まれ、それぞれのプレイヤーごとに異なる攻略スタイルが生まれていくことは疑い得ません。
あなたのお気に入りのドールと戦略をもとに戦闘の場を制圧し、フィールド最深部で待ち構える様々なボスを撃破していきましょう。

感想

じっくり育てるデッキ構築という感じで、割と斬新に遊べた作品でした。デッキ構築というと、とにかくカードを切り替え続けて己のやり方へにじり寄っていく感じのものをよく見ていて、それゆえにローグライトと相性が良いところがあるんですが、この作品はデッキパーツ一つ作るのにまあまあ時間がかかります。
そのために、一回でかなり方針を固めて進めていく必要があり、アドリブ性もありつつも、かなりの部分でプレイヤー自身の戦略方針を問われているような印象がありました。

戦闘システムも面白い作品ではあるんですが、ひとまずは全体のシステムについての話をします。
個人的な印象としては、二重構成になったデッキビルド系のシステムと捉えています。ダンジョンによる強化で作ったドールがそもそもデッキな上に、それをベースにステージの成長を重ねることで、もう一つ構築要素が追加されています。
成長面においても、デッキ構築ゲームをやりつつデッキ構築用のドールを作る二重構造になっているあたりが面白いです。

一方で、ドール育成は特に後半になるにつれてカロリーが高くなるきらいはあり、1時間近くかかるダンジョンでようやく1体作れる中、それを4体用意するような状況になってきます。こうなると4時間近くかかりかねません。
深層を攻略した印象では、恐らく全員を最新のレベルに追従させなくても、一人二人入れ替えれば充分に対応できそうな気配はありましたが、少なくとも突入前にそれを知るのは不可能なので、全員最新ダンジョンで鍛え直してから挑戦させていました。
もっとも、準備自体がゲーム性を持っていて、戦闘システムが結構面白く、成長システムがスリルを持ったリスクリターン形式であるおかげで、中だるみするというレベルまではいきません。システムが秀逸ゆえに成り立っているバランス感といった印象です。

成長システムについても軽く触れておくと、まあまあに運要素がありつつ、自分で選択できるリスクとリターンによりメリハリがちゃんと付いている良いシステムでした。
キャリーオーバーは必ずやった方が良いという前提の元、想定外のことが起こった時にちゃんと損切りできるか、最後の最後に強敵を倒すためにどういうプランで敵を倒すか、など即時性も先を見通す戦略もどちらも要求される良い塩梅の仕組みとなっています。
その一方で、技の取得などはかなりランダム性が強く、想定するビルドに至るにはそこそこの運も要求されます。そもそもダイス運もありますしね。このあたりのおかげで、一本道をただ辿るようなゲーム性が回避され、上手く対応してプランを適宜修正しつつ、できるだけ理想に近付けていく楽しみがありました。

なお、戦闘後に連打する癖があると、キャリーオーバーを止めてしまうことがあるので、ここは注意が必要です。筆者は何度かやらかしています。キャリーオーバー継続の方がよくやる選択肢なので、それが上に来ているとより有難かったかもしれません。

ドールの種類については割と豊富に用意されており、それぞれの性能についても特色があって面白いです。自分が得意とする戦略に沿ったドールが選べると、ぐっと戦いやすくなります。個人的には雑魚の処理性能が高い銃を気に入っていて、ライラがほぼずっと活躍してくれていました。
ただ、上記の育成に時間がかかるという話もあって、中盤以降はあまり新規のドールに手を出す余裕はありませんでした。面白そうなドールはちらほらいるんですが、素養を磨き、1時間かけて育成しないとその性能が真に確認できない以上、どうしてもすでに上手く運用できている戦略に固執してしまうところがあります。
ドール入手時にテンプレのドールが手に入ってお試しできると色々試せて楽そうだなとは思っていましたが、成長要素との噛み合いはだいぶ悪そうなので難しいところです。レンタルドールのような形式の方がまだ自然かもしれません。
恐らく、ほかの人のドール育成を観測して、互いに情報交換し合っていく昔ながらの攻略スタイルがだいぶ向いているゲーム性な気がしています。攻略Wikiが作られるタイプのゲーム。
なお、時間がかかるのは悪いことばかりでなく、そうして作ったドールには結構愛着が湧きます。残りターン数オーバーでHPギリギリの中、ダイス5でゴールにたどり着いて作り上げられたドールとか、ユニークボスを3回目に激戦の末倒して急激に成長したドールとか、各々のドールにストーリーが付随されているのが良い。

なお余談ですが、古いドールの記憶が何の役にも立たないのは若干悲しかったので、せめて金策に役立つくらいはしてほしい気持ちはありました。
割とちゃんと頑張って作ったとしても、序盤から中盤、あるいは後半ですら最新ラインに乗ってないドールは使えないので、結局余らせがちです。そこそこ時間をかけていることもあり、かなり勿体ない精神が働く結果となりました。
そもそもお金がまあまあ足りなくなるデザインになっている印象もあるので、ちょっとカバーして欲しい気持ちもあります。衣装を売るだけだとかなり早く限界が来る印象があるので。

そういった過程を経て、ストーリー最終ダンジョンに挑んだパーティーは以下の構成でした。
雑魚の一掃性能が高く、ボス戦でも強力な破壊力を生みやすいライラを軸としたパーティーです。雑魚戦はライラで片づけられる場合はそうして、そうでない場合はジャンヌが被害を抑える方針でした。
パラメータの都合上、ジャンヌとライラのHP差はえらいことになっていたので、ジャンヌに上手く引き寄せられないと事故る恐れはあったものの、ジャンヌがだいぶ優秀なおかげで助かりました。さすが残りターン数ギリギリまで稼いだだけのことはある。
ボス戦ではドロワの手数の多さでデバフをばら撒きつつ、ローズマリーがバフを積んでいく方針でした。ドロワはサブアタッカー的なこともこなしてくれていて、地味に助かる場面も多かったです。回転率だけで見ると、ドロワの与えた毒ダメージの方がライラより上だったかもしれない。

パーティー構成

個人的に一番好きな戦闘システムの話もします。バフデバフ、状態異常をフルに活用できる楽しい戦闘ができます。こちらのデッキ構築次第では、バフを積みに積んで、相手にデバフを与え続けられれば、一撃でボスの体力の5分の1くらい持って行ける楽しいバランスでした。
また、全体を通して、相手の行動をいかに上手く止めて、こちらがいかに効率良く攻撃するかを考えながら進める、戦略性の高い戦いができるようになっています。
ボスが特に顕著で、一部の行動に関してはきちんと動きを掣肘できていないと、高い火力で一気にパーティーが壊滅状態に陥るヒリヒリ感があります。常に守れる状態をキープできていることがかなり重要です。
雑魚戦についても適度に難しく、強いシンボルに軽率に触りに行くと消し飛ばされることもあります。そもそもゲーム性の都合上、雑魚戦はできるだけ被弾しないのが好ましいため、瞬殺するための戦略を練りつつ、カバーとして被弾を最小に抑える退路を確保していく必要があり、また違った面白さがありました。

そして、特にこの戦略性を担保しているシステムとして、状態スロットとその押し出しシステムが挙げられます。このシステムは色々な面においてかなり秀逸なシステムとなっており、殊にこの作品のゲーム性との親和性が異常なまでに高い代物です。
まず、状態を押し出せるという仕組みは、相手のバフを消す手法としてデバフを重ねる手法が提供されていたり、重複を許すことで強力なバフを込めることができたり、連続攻撃スキルの価値を高めたりと、様々な面で戦略性を高めています。
ランダムでスキルが配られるシステム上、どうしても発生するであろうバフスキルの重複を明確なメリットにしている面が特に秀逸で、戦略の再現性のために同じようなスキルで固めることがむしろ推奨され得るデザインとなっています。

また、単純にボスの性能も面白く、それぞれ特色が合って攻略しがいがあります。
個人的に一番デザインとして好きであり、戦っていて面白く、同時に嫌いでもあるボスは木でした。こっちのバフを利用して攻め立ててくるわ、多重攻撃に相性の悪い防御性能しているわで、かなり苦戦しつつも突破した記憶が鮮明に残っています。最後にこちらの主力以外が全滅した状態でとどめの一撃が入ったのはある意味では奇跡に近い。
充分準備したせいか、ストーリー上のラスボスはそれほど苦戦しなかったものの、きちんと形態変化があるのは好きでした。前段をほぼ無傷で倒して、さすがに強くしすぎたかなと思ってからの真打登場はやはり良いですね。

なお筆者は、100階層育成ダンジョンがその1枠で出てきたあたりから10時間近くの育成が視野に入り、クリア後ダンジョンは断念しています。1時間強の育成を繰り返すのはさすがに堪えそうなので。
現パーティーで攻略するプランもありはしそうなので、気が向いた時にでもやる予定ではいます。

全体のシステムと戦闘システムが上手く回るようにできていて、長期的なパーティー構築と短期的な成長戦略のサイクルが良く動いている作品でした。割と大事なところを運に任せているような設計に見えて、その実プレイヤーはだいぶ堅実に立ち回れば運をほとんど気にすることがないあたりも秀逸です。