第16回ウディコン全作品レビュー - 雪山道
22. 雪山道
ジャンル | 作者 |
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ノンフィールドRPG | WAIT |
プレイ時間 | プレイVer | クリア状況 |
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9時間 | 1.02 | クリア |
良かった点
- ゲーム全体を通しても各階層においても秀逸なレベルデザインでした
- 戦略性の広がりとボス攻略に向けた対応が綺麗に符合します
- 複数の手札から成る様々な戦略を組み立てる楽しさがあります
- 各階層のボスもまた個性的なデザインでした
- 軽妙な会話劇で描かれるキャラクターが魅力的でした
気になった点
- 10階層までの設計はやや容赦がありませんでした
レビュー
多様なボスを多様な戦略で打倒し、雪山を歩もう
※この作品は、ウディコンのエントリーから外れています。
ノンフィールドRPGというゲームジャンルの多くは、リソース制約の中で即応的な戦術をもって対処していくゲーム性となっています。
そのやや強い制約の中でプレイヤーの行動を変容させ、バリエーション豊かな戦略を取らせて楽しませるのは難行であり、それを成した作品は名作と言って差し支えないでしょう。
雪山道は、そのゲームシステムとレベルデザインの力によりこれを成立させた作品となっています。
このゲームにおいて雪山を登り、踏破していくためには、他のノンフィールドRPGの例に漏れずリソース管理が重要となってきます。
リソースの中でも、特に重要なのはHPです。戦闘を重ねて経験値を貯めるとレベルが上がり、最大HPが増加していきます。そして、この最大HPを消費することで、ステータスを上げることができるようになっています。
当然、耐久を落としてでもステータスを優先するか否かの判断も重要となりますが、ステータスを上げるべきタイミングの判断もまた重要です。最大HPを消費しても残りHPは減少しないため、全回復の直後などが狙い目となります。機を伺いつつも、適切なタイミングを計る駆け引きを楽しんでいきましょう。
また、経験値目当てに敵と戦いすぎると消耗し、ゲームオーバーのリスクは飛躍的に高まっていきます。強力な敵や厄介な敵と対峙した際は、時には逃げることも重要です。
HPを軸にしたリソース管理をもとに、こうした様々な判断をこなして上手く戦っていくことが肝要になるでしょう。
しかし、リソース管理だけを気にしていては、雪山の頂上に辿り着くことはできません。
階層を進むにつれてプレイヤーは最大HPを含めた様々なリソースを消費し、魔法という新たなダメージソース、スキルという拡張性、さらにはパッシブスキルから特殊な効果まで、様々な選択肢を得ることになります。
これらを吟味し、現在のリソースの範囲で適切に構築することができなければ、道中の雑魚にすら苦戦を強いられることでしょう。いわんや階層の最後にそびえ立つボスに勝つことは困難です。
現在使える手札を最大限活用し、時にはメタをとって戦闘を優位に進める戦略を考えていきましょう。
これらのシステムから成る戦略性の広がりと、それを余すところなく活用して挑まねばならないレベルデザインは極めて秀逸なものとなっています。階層を進むごとに様変わりしていく敵のスタイルに翻弄されつつも、その攻略を楽しめること請け合いです。
加えて、そういったシステム面も秀逸な作品ですが、シナリオもまた良い作品でもあります。
超然としつつもどこか人間らしくもある魅力的なキャラクターたちによる、軽妙洒脱な会話劇によって構成されるシナリオがテンポ良く進行していきます。雪山の激しさや回想の場面を強く印象に残すスチル、それらを効果的に使いつつ展開していく世界観、キャラクター同士の関係性、それぞれの魅力は雪山を歩む原動力の一つとなるでしょう。
リソース制約の中での組み立てと戦略の幅広さを両立させたシステムに加え、それを十全に活かすステージ設計により、最後まで試行を楽しみ続けられること間違いない作品となっています。
是非とも雪山の登頂に挑んでみてはどうでしょうか。
感想
端的に言うと好きな作品なんですが、感想として文字に起こすとあんまり芯を食った感想にならなさそうな気配も感じています。
何が好きかを表明するだけの文章にならないように、とりあえずはゲームシステム、シナリオ、そしてレベルデザインに触れることで体裁を整えていこうかと思います。
ゲームシステムについては、オマージュ元らしい雪道を遊んだことが無いので確かなことは言えないんですが、とりあえずいくつかの点を置いておけばまっとうにノンフィールドRPGです。
いくつか得られるリソースを管理し、その時々の戦闘を上手くいなし、都度待ち受ける障害たるボスをどう攻略するかを考える体験はオーソドックスなものになっています。このおかげで、基礎要となるところはかなり太い柱によりできている印象があり、面白さの強度を上げています。ありていに言えば、ある程度は巨人の肩に乗ったデザインです。
しかし、ただありふれたリソース管理体験に留まらせず、それをよりユニークなものへと昇華しているのは、魔法を始めとしてゲームを進行するにつれて増えていく変わった手札の数々です。
ノンフィールドRPGはリソースで殴り合うゲームなので、ある程度まで進むとやることが固定化されるきらいがあり、その前に終わらせるか、何かアクセントをつけて延長させるパターンが割と多い印象があります。
この作品は後者の極致とでも言うべきものであり、先に進むにつれて増えていく手札と付き合い、少し変わった思考を随時要求されつつビルドを進めていくことになるため、常に変化を楽しむことができます。なお、これは後述のレベルデザインによっても補強されることなんですが、ひとまずは割愛します。
オーソドックスな殴り合い、MPと捏造MPを駆使して安定したダメージソースを稼ぐ魔法、SPを消費して物理にバフを乗っけるスキル、あるいは優秀なパッシブスキルの数々から、EPを消費する特殊行動まで、広がっていく選択肢に目を通して戦略を組み立てていく楽しみがあります。
やれることがとにかくどんどんと増えていくので、色々と組み合わせたり、その時々の敵に向けてチューニングしたりと常に考えて試行していく体験が用意されていました。拠点でおおよそのポイントをいくらでも振り直せるのも非常に良く、カジュアルにいろんなビルドを試して挑戦することができました。
試すという観点で言うと、攻撃性能やスキルの詳細について、ある程度は説明しつつ、ある程度は省略するという設計もまた絶妙な塩梅で完成されています。全てを説明すると試行錯誤の意識を削ぎ、説明しなさすぎるとそもそも試行錯誤もできないんですが、その中間択を綺麗に突き抜けた設計となっていました。
例えば魔法を得られた時、この作品では魔法のダメージ計算はある程度予測を付けて行い、その結果を元に効果を推定して効果的な対象を考えることになります。これを序盤で積み重ねていた経験があればこそ、中盤から終盤にかけての敵に対して魔法を使ってみるアイデアが手の届くところにあるという寸法です。
説明の省略をもってプレイヤーに学習を促し、それにより思考の中に選択肢を住まわせる手腕がとにかく絶妙な作品だと言えます。
リソース管理の中で行われる豊富な手札からの構築、その構築を自然に行わせる省略の妙、それをもって己から発する戦略性の広がり。
雪山道というゲームのシステムが持つ裾野はあらゆる挑戦を受け入れてくれる度量があり、その中で試行錯誤をのびのびとすることができるようになっています。
続いてシナリオ面の話になるんですが、ここは完全に好みです。筆者は、無駄っぽい話を織り交ぜながら軽妙に会話が進んでいく会話劇を好むところにあるので。全体的に見ると断章を繋いで会話のみで世界観からキャラクター性まで描写していくタイプなので、そういったものが好きな人は間違いなく好きだと思います。
言い回しが全体的に上手いのも良いんですが、それ以上に断章として抜き出す会話の流れが良くて、全体を通せばかなり少ない会話量に感じるんですが、各々の性格や関係性の変化から、それぞれの妙な歪み方まで綺麗に描写されています。
後は、主人公含めて周りがまあまあに変人でありつつ、きっちりしたところでは常識人の顔を見せるバランスも良いところです。魅力を感じる偏りを見せつけつつも、人間として外れすぎない良い塩梅の描写によって、人間っぽさとキャラクターとしての魅力が両立されています。人間と呼んで良いのか分からない登場人物もそこそこいて、そこは神性と俗さが共存しているあたりも良い。
また、シナリオ中に度々差し込まれるグラフィックについても、この良い意味で簡潔と言って差し支えないシナリオ性にマッチしたものとなっています。テンポ良く進んでいく物語を止めることなく、その場において印象に残る情報に先鋭したスチルは会話劇同様に軽妙に、しかして強く心に残るものです。
後は単純にレクサールが可愛い。
そして何よりも、終わり方が秀逸であり、安寧にいないというか、心の半身が常につんざく世界の天辺にあるあの空気感は最高と言って良いものでした。
願わくはAnother行きたかったんですが、筆者のプレイヤースキルの都合により断念しています。その先にある別の可能性を覗きに行きたい気持ちはあるので、ちょくちょくチャレンジはしようと思います。
しかし、掲示板を見てたら縛りプレイじみたクリアしてる人もいるので世界は広い。
最後にレベルデザインの話もします。システム設計が抜群に良いのは前述した通りなんですが、これを補強するレベルデザインの良さもあって、このゲームの体験はより強固なものになっているという面があるように思います。
大枠におけるゲーム設計全体におけるレベルデザイン、そして階層ごとのテーマに沿ったレベルデザインのどちらも秀逸なんですが、とりあえず前者について触れます。
このゲームはおおむね、10階層までがチュートリアル、18階層までがボスチュートリアル、そしてラストバトルに向かうという構成に感じていました。
特に10階層到達にあたっては、リソース管理の殴り合いから魔法を習得した別次元の戦略の広がりをマスターしないと攻略できない難易度になっています。後々9階層にナーフが入ったらしいので今そうなっているか分かりませんが、少なくとも筆者のプレイタイミングではそういう設計でした。
なお、魔法無しで突破していた筆者はここでつまずいたので再走しています。
これは、ともすればスパルタと言って良いレベルの設計なんですが、これのおかげでこのゲームは多様な戦略をとって幅をもって戦うゲームということを叩き込まれます。少なくとも第二の札を持っていないと、まともな勝負にさえならないこともあります。
この10階層までの道筋は、このゲームにおける表明のレベルデザインであり、戦略の道筋を提示するものとなっています。若干選別のレベルデザインに片足を突っ込んでいる感じもしますが、その辺は9階層のナーフで緩和されているかもしれません。
10階層へ到達した先に待ち構えているのは、これまでのリソース管理による切り詰めた戦いから一転して、1階層ごとに全力を出せる設計に切り替わります。同時に取れる選択肢の広がりの可能性もまた提示されることもあり、切り詰めから解放される安心感も得られます。
そして、Anotherを目指すならともかく、本質的には負けても問題ないデザインに切り替わることで、ここからは攻略に向けたレベルデザインに変化していきます。10層までの場当たり的故に限られた戦略性から脱し、より幅広い選択の中で攻略の糸口を見つけ出す戦略性へとシームレスにつながっています。
ここから18階層に至るまで、途中の雑魚や中ボスですらも、ある程度特徴を持ち、どうやって上手く攻略するかを考える必要が出てきます。いわんやボスはどれも個性的であり、それぞれがそれぞれの攻略法を要求し、あるいは固定的な攻略法を封じる性能を秘めています。
このため、ボスごとに戦略をある程度様変わりさせていく必要が生じていき、階層ごとの色を適切に捉えて現状の手札からの戦い方を試行し、攻略していく楽しみが味わえました。
そして、この土台となっているのは間違いなく先行して体験した10階層までの経験です。おかげで、その経験に立脚し派生していく思考を基に奥深い戦略を突き詰めていくことができるようになっています。
そして、それらを総括するようなノエル、あるいはラスボスの設計は見事というほかになく、まさしくこれまでの戦略の総決算として挑むことができます。ボスごとの固有能力に対応してきたこれまでの経験を総動員し、めくるめく戦況に対応しつつ戦っていく感覚は得難いものがありました。
また、レベルデザインとは直接関係ありませんが、各階層におけるボスの特異性というか、デザイン的な面でのネタへの走り方もまた良く、次の階層で出会うボスを楽しみにする牽引力ともなっていました。
もっとも、ここが原因でウディコン的には停止になってしまった部分でもあるので、あんまり色々と言うのもアレではありますが。ただ、Cross Fait Battleでは笑いましたし、地獄を見せてあげるで終わりかと思ったらまだまだ終わらずに続くマトリョーシカには思わずおいという声が出ました。
また、もう一つレベルデザインとして秀逸な点として、確かにインフレしていくように設計しつつも、戦いになる程度に抑えられているところがあります。
リソース管理を軸とするノンフィールドRPGにおいて、成長は明確には数値でもって表されるものであるため、数値のデザインはかなり重要です。そして、この作品では、この数値のインフレ具合と、一部パラメータにおけるインフレしない具合が絶妙にコントロールされています。
特に、各パラメータが関わり合った結果のダメージは確かにインフレを感じ、大きく成長を感じていく一方で、コストとして使うポイントの多くはそれほどインフレさせられません。
ゲームシステムを崩壊しない範囲で成長を実感させつつ、絞るべきところはきっちり絞られた設計に感じていました。
そしてこれは筆者がAnotherをクリアできてない立場で言うのは大変に烏滸がましいんですが、Anotherに向けての0回死亡クリアという導線が引かれているのも極めて良いところになります。
ここまでで段階的に引かれてきたレベルデザインに対し、さらに上級者向けに一本筋を通して新たなる試行を行わせしめるものとなっています。挑戦のレベルデザインとでも言いましょうか。
ある意味ではチュートリアル的にクリアに向けての導線としての役割を担っていつつも、それ全体を一貫してより大きなチャレンジへの布石となしている、この分離と統合のデザインは一粒で二度おいしい設計として完璧に機能しているように感じました。
長々と書いてはきたんですが、端的に言えばめっちゃ面白いのでやれば良いと思います。
筆者はノンフィールドRPGが下手ではありましたが、何度でもやり直して戦略を練り直せるので、不屈の闘志で挑み続けていくことでクリアまで到達できました。雨垂れ石を穿つです。そういう意味でも、9階層さえ抜けられれば誰でもクリアできるようにはなっていると思います。
なお、この作品とは直接関係ないんですが、オマージュ元らしい雪道の作者さんの新作がSteamに出ていたので買おうと思っています。雪山道をやったら滅ぼし姫をやろう。