第16回ウディコン全作品レビュー - 迷宮郷まよろば
51. 迷宮郷まよろば
ジャンル | 作者 |
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探索 | そぞろ豆腐 |
プレイ時間 | プレイVer | クリア状況 |
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1時間30分 | 1.0.2 | 100%/100% |
良かった点
- 素晴らしい世界を尋常でない表現力と演出力で彩っていました
- 細部に至るまでの演出や設計が世界の輪郭を確かなものにしています
- モチーフのバリエーションが豊かで、常に新鮮味があります
- 素晴らしいグラフィックもさることながら、シチュエーションごとのサウンドもまた秀逸です
気になった点
- アクションパートがやや処理落ちのような印象を受けます
- そういった演出かもしれません
レビュー
見えるようにする芸術
探索における分岐した道に対するリワードの設定は、ゲームデザインにおける関心事の一つです。多くのケースでは、そこに宝箱のような分かりやすいメリットを配するか、エンカウントのようなリスクを付けることでバランスが取られています。
しかし、探索それ自体を主眼とするゲームにおいては例外もあり得ます。探索して得られたその景色、あるいはその体験そのものが価値を提供し得るのであれば、そこに何も配置せずとも意味が創出されるでしょう。
迷宮郷まよろば は、その圧倒的な表現力と演出力によって、あらゆる探索に価値を生み出し、遍く場所を巡る楽しさを作り出している作品と言えます。
この作品の基本的なゲームシステムは探索に強く依拠しており、世界各地を巡りつつ、おたからを拾い集めてゴールに辿り着くことができればクリアとなるものです。
おたからは各地に散在しているため、色々な場所を巡り、マップを探索していくことになるでしょう。その過程でちょっとした謎解きやアクション、あるいはギミックを使うこともあります。しかし、このゲームにおいてのそれらは様々な体験を演出せしめるフレーバーとしての性質が色濃く出ています。
何故ならば、このゲームの真髄は探索であり、それを強く誘引せしめる世界観の表現と演出であるからです。
その圧倒的な表現力により、プレイヤーはめくるめく世界を自由に回りつつ、おたからを探すために様々な場所を訪れてはその趣を楽しむことができるようになっています。時には、物質的には何も得ることのないエリアさえありますが、精神的な充足性によって充分に代替されています。
心の赴くままに色々な場所を巡り、まよろばの旅を楽しみましょう。
一度世界を旅して回ったとしても、全てを知り尽くせるわけではありません。
ちょっとした隠し要素があったり、細かい演出が隠れていたりします。世界を自由に彷徨い歩き、その表現に浴してはみませんか。
感想
表現力と演出力が突出して高いので、仮にただそれだけであったとしても遊ばせる力のある作品でした。もちろん、それだけではないので、より遊ばせるような作品でもあります。
ここまでの表現性能があれば、MandagonやEL NE RUEのような、ただ歩くだけのゲームに落とし込んでも充分に過ぎるレベルではあるんですが、ここに色んな体験も配してあるのが個人的には好きです。
最初に見た印象としては、ドット絵に圧倒的な情熱が傾けられたタイプのEastwardやらOwlboy系の作品かと思っていました。実際、一部マップにおけるドット絵の表現力は飛び抜けて高く、ただそれだけで体験になるレベルまで磨き込まれています。
しかし、実態はそれに限ったものではないというのも面白いポイントです。影の印影まで変わるような、印象の変化が各世界において発生していきます。あえてファンタジーな世界観ゆえに緩くまとめられた世界、ドット絵という方向ではなく美しく描かれた世界、赤いライティングを始めとした表現で彩る世界、多種多様な表現であらゆる方向から攻めてきます。引き出しが多い。
個人的に好きなポイントを話すとキリがないので詳しくは後述しますが、とりあえず海中パートのアクションが抜群に水中っぽさが出るのは良いポイントです。ちょくちょくおなかがすくマップもあります。なんで絵が上手い人は飯テロしてくるんだ。
アクションパートもそういった印象を変える一助を担っていて、ワープを活用すればあんまり頻繁に訪れるところでないのも含めて良い感じでした。ただ、処理落ちしているわけでは無さそうなのに、なんとなく処理落ちしているような動きをすることだけは気になっています。この感覚がどこから生まれたものなのかは、筆者にも分かりません。スクロールに違和感があるのかな。
また、個人的に最初に地図が手に入らない設計なのも好きではあります。ここは好みが分かれそうですが。
地図、もといガイドマップが手に入ると、一気におたから集めという目的のための探索になってしまいます。あそこにお宝があるから、ここの道をこう通って回収しに行こう、ここは何もないから適当に通り過ぎよう、みたいな感覚がどうしても付きまといがちです。
なので、特に序盤のうちはガイドマップなどは持たずに、周りを好きに見て回っては探索し、世界を存分に楽しめる方が好みでした。もっとも、それがある程度許されうるのは、このゲームが異常なまでにマップ全体に表現を行き渡らせており、どこに行っても、そしてそこにお宝が無かったとしても満足できる設計になっているためとも言えます。表現のパワーは偉大。
そして、この表現の密度というのはまよろばという作品の特徴の一つであって、この作品の満足感が総じて高い所以でもあると思っています。
探索ゲーム、かつ何かを集めるようにする場合、どうしても外れの道、あるいは意味のない道というのが生まれることになりがちです。ここは探索アドベンチャーの宿痾みたいなものです。
そこをこの作品は、何かユニークなオブジェクトを置いたり、圧倒的な表現を持つ作品を屹立させたりと、とにかくその演出と表現のパワーで補っています。おたからが無かったとしても、そのルートそのものが無駄になることはありません。何故なら、そこでしか見れないものがあるからです。
加えて、モチーフがどんどん様変わりしていくために、それぞれの表現に飽きが来ることもありません。常に歩き回っているだけで楽しい作品となっています。
また、表現の密度が高いおかげで、マップを広く錯覚するというのも面白いなと感じているところです。実際に探索のために歩き回ると分かるんですが、マップ全体は決して広すぎるというほどではなく、おたから探しに適度に歩ける程度に収まっています。しかし、画面の外にある無数のオブジェクトのせいなのか、バリエーションに富んだ表現の広がりのせいなのか、感覚的には世界はかなり広く感じることができます。
これもまた、余りにも詰め込まれた密度が高いことが成せる業の一つなのかもしれません。
それではせっかくなので、マップごとに好きなところでも話そうと思います。
まずは最初、このゲームの自己紹介とでも言うべき場所であり、一発でどういうゲームか分からされる場でもあります。蝉の声、風情ある街並み、そして神社と、全ての雰囲気が締まっています。個人的に好きなのは、この時点で隠し道があるところで、色々と探索をするようなプレイヤーはこの時点で、そういうゲームであるということも理解できるようになっています。
加えて、この探索要素にあえて何も与えないことにより、このゲームの方針もまた一目で了解できるものともなっています。このゲームにおける隠し要素とは、そういうものである、と分かります。
続いて、ちょっと抜けておもちゃ街道。ここでいきなり分岐があり得ます。探索を諸々していると、唐突に分岐が現れ、完全に未知の世界に放り出されるのが良いです。
一方で、探索をしなければ一本ルートのままである、というあたりも絶妙で、それほど探索をしないプレイヤーは特別迷うことなく進められるようにもなっています。
神社で見せたドット絵とその表現力から、こういった異世界的というかともすれば乱雑な世界へと遷移していくというのも良く、ここもまた一つの自己紹介となっています。このゲームは多様な世界を旅する作品である。
額縁回廊から地下水路。厳密にはここで筆者はワープを選択したので額縁回廊はスキップしたのですが、とりあえずマップの流れで話します。
途中にアクションパートが挟まることもあって、ここもまた印象がだいぶ変化していくところです。いきなり静かな空間と厳かで絵画のほかに何もない空間が出てきたと思ったら、すぐに曲調の良い地下水路に飛び出します。
この脈絡の無さが好きです。ここまで来れば、もうどの世界とどの世界が繋がっていようが、何の疑問にも思わなくなってきます。
また、アクション、扉選択、視界不良、と微妙にそのモチーフごとのオリジナリティが配合されているのも良く、それぞれが短いがゆえにある程度デメリットを負うようなものでも好意的に捉えることもできています。こういうステージが長いと厳しいけど、さっと終わってくれるので良い。
地下水路を抜けて、シャボンランドあるいは温泉郷まで。
ここで出てくるような縦に登っていくステージに代表されるように、頻繁に視点が変わっていくというのも面白く、また世界が多様であることをより強く感じる要因になっています。見下ろしのみならず、時にはカメラを引いたり、横スクロールアクションにしてみたり、あるいはノンフィールドにしてみたりと、その印象の変化をもってして探索に広がりを与えていました。
そして、この辺でワープを体験していなければ初めて分岐が発生します。ちょうど良いタイミングですね。
温泉郷もシャボンランドも地下水路との差別化が良く、それぞれ別方向で全く異なる印象を提供しています。
シャボンランドは後続のスイーツも含めたメルヘンな世界の方向性、温泉郷は序盤にあったような風情の構築と、それぞれ全く異なる世界が隣接していくことで、目くるめく世界の構成を見事に実現しています。
温泉郷で特に好きなのは光の表現です。フロートちゃんにかかる光も良いんですが、それ以外の装飾におけるライティングが綺麗で好きでした。後は入り口で待っていると手前を列車のようなものが通り過ぎていくような、細やかな演出も好きです。
シャボンランドからスイートストリート、そしてシャーベットタウンに至るルートは、これまでとは反対に、ある程度印象の統一されたルートともなっています。いずれも印象は微妙に変えているので、全く一緒というわけではありませんが、このゲームにおけるファンタジーというか不可思議なタイプの世界が連続して表現されています。
ここに限らず、序盤はある程度目くるめく変化を見せつつ、中盤以降はある程度エリアごとに特色を固めていくのも上手い設計です。
個人的にはスイートストリートが好きです。バームクーヘンでループする道なんかは、全くの無意味だけれど見目として面白いという、前述したような面白みが詰まっています。
また、奇妙な世界繋がりでは、ファミレスもあって、ここも好きです。筆者はスイーツよりこっちの方が飯テロでした。美味そうに過ぎませんか。
そして、ファミレスから続くきのこ、そしてそこから繋がるひまわりヶ丘は接続として好きなポイントです。
このメルヘン地帯を抜けると、一気に青空を幻視するような世界へと開けます。このギャップが余りにも良い。一見青い空が見えないはずなのに、ここまで抜けるような青空を感じさせる表現には脱帽です。水たまりに映る青空で、この青空が幻でないことを知るのも良い演出です。
そして、自然豊かな滝や夏の青空です。晴れやかさが凄い。ここにはおたからが全くないことは知ってたんですが、それでも来てみたし、来た方が良い場所です。道中のビデオ表現も良い味を出していて、適度に緩急がついています。
そして、ここから地獄に繋がります。一番爽やかに見えるところから、一番おどろおどろしいところに繋がっています。
そりゃこの表現力でそういう方に振れば恐ろしいよね、というものであり、根源的な恐怖の一端に触れられます。
地獄で個人的に好きなのは、そのBGMであり、かつその使い方です。このBGMのおかげで、恐怖というか背中がぞわぞわするような不快感が際立っていました。後は、一度入ったからには戻れない世界であるあたりも良いですね。
翻って、キノコと反対側には火山があります。
ここで一番感動したのは、何と言っても近付くごとに赤く照らされるフロートちゃんです。ウディタにライティングなんてないのに、何故かライティングをやっています。キャラチップをいちいち差し替えているってことですか。
また、ここで手前に木が見える縦方向マップ、提灯と瓦造り、というようなどこかで見た、あるいは見ることになる風景が織り交ぜられているのも印象的です。このあたりの、各モチーフの印象を変えつつ、どこかでリフレインするようなマップ構造が素晴らしいところになります。
少し戻して、スイートストリートの反対側は夜桜公園です。この間に、いずれとも異なるタッチのマップが差し挟まっているというのも面白いポイントです。ここからシームレスに繋がっても良いところを、あえて一気に断絶した世界を挟むことで、両者の境界がより際立って見えます。
話を夜桜公園に戻すと、夜桜と満月です。魔性のコラボレーションですね。再三言ってきた、その演出力というか表現力の高さも相まって、ここの情緒はもうえらいことになっています。
ここの好きなところは当然そのエモさとしか言いようがない空気感ではあるんですが、細かいところに言及するなら反射率の違いです。木目と水面の細かな反映の差が好き。こういう細かいところの徹底が、そういった空気感を生んでいるというところがあります。
そして、菜ノ花小路を抜けて、西日の園です。
ここに関しては、時間の経過が示されているという面が好きです。夜桜から夕方、そして西日です。この時間感覚の違いが、この世界の不可思議さを十全に表現しています。夕方と西日にそれほど違いは無いので、どこまで意図したものなのかは分かりませんが。
夜桜から来た場合は時間を逆行する摂理に反した不可思議さも味わえるので、筆者個人としてはこちらをお勧めしたいです。もっとも、西日の園側から侵入するケースであっても、時間経過そのものを感じるという体験を得ることが可能ではあります。
ここから、迷いの森とゴーストマンションがあります。
こちらは地獄とはまた異なる雰囲気の方のホラーとなっています。ホラーという表現の引き出しも複数あるわけですね。
火山や地獄と並ぶ行き止まりの設計となっており、三者三様にその空気感が異なるのが面白いところです。どこも共通して、それほど明るい印象じゃないというのがあるんでしょうか。
なお、後述する竜宮城も性質は近いんですが、微妙に分岐点でもあるので個人的にはこの分類には含めていません。
またちょっと戻して、シャーベットタウンから星の湖へと繋がり、龍ノ宮へと繋がります。また、雪の迷路を経ることでも到達できます。前者だとほとんど通過点ですが。
星の湖は夜桜公園のリフレインとして良いです。先述で反射の演出が好きと言ったのは、ここでの違いも楽しめるからというのも理由になっています。
また、雪の迷路はここまでの探索形式から全く異なるものに変化するのが面白く、中間点での奇のてらい方として完璧でした。
そして、龍ノ宮ですが、先述した通り海中パートの水中っぽさが良いです。ちょっとだけ動けること、モーションが異なること、そのままいると沈んでいくこと、とにかく細かいことの積み重ねで水中っぽさを上手く表現しています。そして、この水中パート、登場機会が限定されています。これだけちゃんと作っているのに、惜しげもなく限定的に投入してくるというのが凄い。思いついたアイデアの宝石箱という感じがします。
圧倒的なドット絵のパワーや、ライティングを含めた絵作りの上手さのみならず、このような細かいところの配慮こそがまよろばという世界を美しく描き出している側面があるので、この辺の工夫は好きです。
そして最後にある竜宮城の行き止まりは、この作品だからできることの煮凝りとなっています。おたからも無く、ただただ梯子を上っていくだけでありながら、その表現の力だけで推進されてしまいます。
話を戻して、龍ノ宮からは最後へと至るプラネタリウムに接続します。
ここについても、宇宙という新たなモチーフでありつつ、キノコや水晶のような既視感のあるデザインも配し、世界に融和させています。重ね重ね、このあたりの構造が上手いです。
そしてゴールから、最初の街へとループ構造となって完了です。筆者は最初の探索時にこのルートを見つけており、最後に綺麗に接続してとてもすっきりしたことを記憶しています。
このように、ある程度分岐はシンプルで、各マップについてもそれほど広くないので、おたからを集めるのはそれほど難しくはありません。地図と見比べていけば、それほど苦労せずに集められます。
ただ、分かりやすいチェックリストが用意されているわけではないので、収集箇所を朧気に覚えておいた方が、ヒントと突き合わせて特定しやすい面はあります。できるだけ一日の記憶が鮮明なうちに終わらせるのが得策だろうとは思います。
筆者はクリア時に子供部屋が残ったくらいで、ショートカットは全て開通し、それ以外もおおむね完了していました。探索好きなら大体そうなりそうです。
子供部屋についても、ある場所は大体予測がつく上、地図からもそれっぽいものを感じ取れるので、チェックリストコンプリートについてもさほど難しいものではないと思います。
もっとも、あんまり気負わずに、色々見て回るのが一番楽しいですが。
とにかく全体を通してずっと表現力の暴力に晒される作品だったと言えます。しかもバリエーションの引き出しまで凄まじいので、常に驚きをもって世界を巡っていくこともできるようになっています。
もし、このゲームに唯一の欠点があるとすれば、サムネイルを親指の爪というファイル名で同梱しているくらいだと思います。ホラーゲームかと思った。