第16回ウディコン全作品レビュー - 記憶のあらいかた
52. 記憶のあらいかた
ジャンル | 作者 |
---|---|
メタパズルADV | みやの |
プレイ時間 | プレイVer | クリア状況 |
---|---|---|
20分 | 1.0相当 | クリア |
良かった点
- ボイスが極めて有効に活用されていました
- キャラクターの個性が際立っています
- インパクトのある作品でした
気になった点
- 特にありません
レビュー
天下無双のインパクト
何も説明を受けずに始めた方が良いゲームというのは確実に存在し、この作品はそれに属するものとなっています。
もしも体験を損なうことなく、ゲームを十全に楽しみたいのであれば、以下の文章は読まずにそのままプレイすることを強くお勧めします。
記憶のあらいかたは、フォルダを活用した謎解きを行うノベルゲームです。
また、その謎解きの設計はパズルにも近く、シナリオの構成はアドベンチャーゲーム的でもあります。
プレイヤーはそれぞれのフォルダを上手く操作していくことで、個性的なキャラクターとの交流を図ることになります。
一癖も二癖もある特徴的なキャラクターに対し、適切な操作を行ってシナリオを進めていきましょう。時には記憶を消したり、入れ替えたりといった行為を通して、上手くコミュニケーションを取っていく必要が出てくるでしょう。
そうしたゲームの設計はパズルのような面白さを有しています。しかし、やはりこの作品の圧巻は「作者がヒロインです(天下無双)」と注意書きされるほどのインパクトです。
そのボイスでより強調され、よりメタに飛び出してくるキャラクター性の強さにより、短いプレイ時間の中でさえ絶大な印象を残すこと疑いありません。
ぜひともプレイして、その衝撃を味わってみてください。
感想
この作品は完全に好みなので、割と得点を意識的に抑えるか悩んだんですが、好みでもまあ面白いだろうということでそんなに遠慮はしていません。所詮主観ですからね。
個人的には短編の中では水底の記憶と並んで1位です。印象に残る度合いなら、全作品を通してもトップクラスかもしれません。
なお、以下の感想はかなり大きくネタバレするので、まだプレイしていない方はそもそも読んでいないとは思いますが、読まないことを推奨します。面白いので、まずは遊んでみてください。
とりあえずボイスの話をしないとこの作品の良さを十全に語れないので、まずボイスの話をします。
ボイスが良いです。やれば分かります。声質というか表現というか、ちゃんとキャラクターごとにその色を分けていて、どうやっているんだろうなあと思っていたら作者ボイスと書いてあって驚きました。上手すぎないですか。
作者がボイス担当、作者がヒロインです(天下無双)の言葉通り、真に天下無双の設計をしています。すごい。
ゲーム内の謎解きについてはそれほど難しくはなく、メタ的な面白さが担保されているタイプです。
その謎解きの設計もちょうど良く、みーちゃまが何が起きるのかを示し、ゴールの提示役として機能した上で、みーさまが別ルートにヒントを残し、みーさんは全探査してないことを確認した上で思考を巡らせる必要があります。三者が三様の役割を当てられたパズルとして設計されています。パズルとして綺麗ですね。
個人的には、みーさんの謎解きが好きです。
シナリオは個人的には若干解釈に惑うところがあれど、おおむね楽しむ分には問題ないようになっています。
はじめ、あるいは割と終盤まで、そもそも受け入れられないなどの話があったので、ゲーム内存在から第四の壁を示した話なのかと思っていて、外注の一枚絵あたりの言い方がその示唆なのかなと感じていました。ただ、最後のやり取りを鑑みるとその辺も少し怪しく、好きに解釈して良さそうな気配を感じています。
また、各キャラクターの個性が立っているのも好きなところです。これは、半分くらいはセンテンスのセンスで構成されていますが、もう半分くらいはボイスの力じゃないかなと感じています。声が持つ力の偉大さを実感しました。
その強烈な印象は他の追随を一切許さないレベルであり、このコンテストにキャラクター部門があれば一等賞に燦然と輝く域にいます。誰が一等賞かは議論の余地があるかもしれません。何なら作者さんなのかもしれない。
また、個人的に面白いと思った表現として、ボイスを付けることで漢字の読み方に突っ込みを入れるメタ表現があります。台本すら自由なんですね、このゲーム。
提示される文字それ自体を否定することで、このゲームのそういう自由奔放さや、メタっぽさがかなり強く印象付けられるので、システム面でも割と好きな表現です。一発でそういうゲームであるということが分からされる感じがあります。
なお、上記で示したジャンルは色々悩んだ結果、割とえいやの気持ちで決めたものです。メタっぽいけどメタではない気もしていますし、パズルって程パズルでもない気もしますし、かといってヴィジュアルノベルは完全に違います。何と言えば過不足なく印象が伝わるのか分かりません。語彙力が無い。
全体を通し、やった時間こそ短いながら、強く印象に残る作品でした。フルボイス、ファイル操作を伴うメタゲーム、変に個性的なキャラクターと間違いなくおなべのこげになるゲームです。
20分程度のゲームプレイ時間だったとは思えないほどに密度の濃い体験ができるのでお勧めしたいんですが、説明するとネタバレに抵触するので難しいです。魔王復活物語といい、面白いのに説明できないゲームはだいぶもどかしい。