第16回ウディコン全作品レビュー - 今世
70. 今世
ジャンル | 作者 |
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ADV | 亅于ぬこ |
プレイ時間 | プレイVer | クリア状況 |
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5分/15分 | 1.0相当 - 1.05 | ENDING |
良かった点
- 短くすっぱりしつつ印象に残る演出でした
気になった点
- テキストがやや冗長でした
- それが味になっている側面もあります
レビュー
今生
今世は、暗い要素を含むアドベンチャーゲームです。
死後の世界に来た主人公が、そのやり直しのために人生の追体験を行っていくものとなっています。
最も古い記憶から、死の直後まで、いくつかのイベントを経由して人生は進みます。その内容はどこに光があるかも分からないほどに暗いものとなっており、淡々としかし印象的に演出される記憶によって構成されていきます。
それら全てを経験してなお、やり直しを選択するべきかはプレイヤーの選択次第です。
全体をプレイしても15分程度の短編でありつつ、その表現と展開が印象に残る作品となっています。
主人公と共に追想し、その選択を示していきましょう。
感想
個人的な感想だけ最初に述べておくんですが、危なく評価をミスるところだった作品でした。と言うのも、この作品は出展してしばらくは別の作品が間違えて展開されていたらしく、その修正前に遊んでいたので、本当に全く違う作品を遊んだ上で点を付けていたためです。
最後の方に余裕があって、どうも異なる作品に差し変わったらしいという情報を見かけたので遊んでいなければ、ミスるところでした。危ない。
なのでもし、大音量の天国と地獄の中で掃除をしていた記憶でこのゲームを終えていたのであれば、もう一度ダウンロードし直すことをお勧めしておきます。
なお、前述の作品と大筋がそこそこ似通った部分があるにはあるんですが、そちらがだいぶ淡泊な仕上がりになっていたのに対し、こちらはかなり重く仕上がっています。見た目は割と近いんですが、プロットがだいぶ違うので注意が必要です。
閑話休題。全体を通し、短編として良いアドベンチャーでした。演出としてくどいところがなく、人生の最悪を綺麗にフラッシュバックしてくれます。
最初に幸せっぽい記憶から開始して、徐々に最悪に転がり落ちていく様であるというのが非常に良くできており、最悪とは落差によってより強く生じるものであるということが良く分かりました。そこまで撃ち落とさなくても。
短い期間でプレイヤーの行動を差し挟みつつ、畳み込むように仕掛けてくる悪意の演出は中々心にくるものがあります。
一方で、テキストは反対に良い意味でくどい印象を持っており、端的に言えばものすごく良く喋ります。ただ、イベントごとにめちゃめちゃ喋るというわけではなく、要所要所で非常に強く、何度でも、噛み締めるように良く話すといった印象の作品でした。
特に初めと終わりが顕著なので、言葉の圧により物語るフェーズと、演出の力により物語るフェーズを完全に隔てている作品であるとも言えるかもしれません。初めにまあまあ喋るのだけは若干没入感を削ぐきらいはありますが、長文とはいえ短編なのでそれほど気にするレベルではありません。
しかし、すごく親切な彼なりの人生論を持ったおじさんは何者だったんでしょうか。どういうわけか仕組みを知っているようですし、何故か生き返る術まで知っています。知っている上で生き返っていないのも良く分からない。
臨死体験なのかと言えば、そういう性質の物語でもないので、彼の存在は本当に謎でした。本当に単に親切な、たまたま誰かの話を小耳に挟んだ、通りすがりのおじさんである可能性もあるかもしれない。
後は、死亡直前のシーンは受け取り方にだいぶ悪意があるんですが、あれが試練としてそうだったのか、主人公目線でそう感じたものだったのかは、どちらに解釈しようか迷っています。個人的には後者というか、今際の彼女の記憶を基に再現するのであれば、そうなるのが自然であった、くらいの解釈ではいます。そういう目で見られているという自覚のもとに、事故とはいえど突き飛ばされたのであれば、彼女の目線ではそう解釈せざるを得ない部分はあるのかなと思っています。
しかしまあ、うっかりとはいえやってしまった未来における椿さんは辛かろうという気持ちはあるので、そういう意味でも主人公の選択は二人ぶん救えるものだったのかもしれませんね。