VA-11 Hall-A: サイバーパンクで人を描く
VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action
値段 | クリア状況 | 実績 | プレイ時間 |
---|---|---|---|
1500 | クリア | 34 / 34 | 14時間 |
お勧め度 | コスパ |
---|---|
★★★★★★★★★☆ | ★★★★★★☆☆☆☆ |
初めに断っておきますと、筆者は技巧的な物語を好みとする傾向にあります。ゆえにこうした感想をしたためる際も、どこが技巧的に優れているゆえにどういった体験を生んだかを書くパターンが多いと思います。
一方で、VA-11 Hall-A は大きく技巧に凝った作品ではありません。伏線はさほど多くもなく、物語に巧みさを感じる部分も多くはありません。しかし、この作品で描き出される物語は確かに琴線に触れるものでした。
一日を変え、一生を変えるカクテルを!
カクテルを振舞おう |
---|
VA-11 Hall-A は、いわゆるサイバーパンクな世界観の中で、バーテンダーとして客にカクテルを提供して話を聞くゲームです。
カクテルを振舞うという行為により、アクの強い魅力的なキャラクター達が織りなす物語が、時に輻輳しながらも進行していきます。
人を描いた物語
サイバーパンクで人を描く | カクテルを振舞うという干渉 |
---|---|
VA-11 Hall-A という物語が描き出しているのは、人の強さと弱さや、気高さと醜さといったものであり、そしてそれらが渾然一体となったキャラクターそのものです。
このゲームの世界観は確かにサイバーパンクにあり、グリッチシティというディストピアの上に立脚しているものです。しかし、VA-11 Hall-Aがその上で紡いでいるのは、その構造を説明する写し鏡のような代表人物ではありません。その構造の上で確かに生きている人々を描いています。
登場するキャラクターたちはどれも癖のある人達ばかりです。ただ、彼らが抱える悩みに大きな癖はなく、どれもが一般的であったり普遍的であったりする悩みのように思えます。
加えて聞く側のバーテンダーも特別な人ではなく、カウンター一枚隔てた先の世界に大きなアクションがとれるわけではありません。ましてや、その背後にいるプレイヤーはカクテルを振舞うことでしか干渉することはないでしょう。
しかし、カクテルをあおり悩みを吐露した彼ら彼女らは、あるいは勝手に、あるいはバーテンダーの後押しで少しだけ前進していくこともあります。カクテルを振舞うというごく小さなアクションでしか物語に干渉はできませんが、それは少しだけ変化をもたらしてくれます。
カクテルを出すという、ゲーム性という観点から見ればほとんど無いに等しい干渉でも、物語という面で見れば確かに影響を与えているのです。
好悪の念すら湧いてくる
筆者が一番嫌いなキャラ | 筆者が一番好きなキャラ |
---|---|
また、非常に人間臭い彼らの物語を見ていると、どのキャラクターにも好悪の感情が湧いてきます。
例えば、筆者ははじめ竹を割ったようなドノヴァンの言動を割と好ましく思っていたのですが、いろいろあって最終的にはだいぶ嫌いになり、一見正しそうな説教臭い人には気を付けようという気持ちになりました。
このような嫌いという感情がちゃんと湧くほどには、どのキャラクターも丁寧に描写されています。
加えて、人間臭いのはバーに訪れる客だけではありません。VA-11 Hall-A の大きな特徴は、主人公のジルですら物言わぬプレイヤーではなく、一人の強くも弱くもある人間であるということを細やかに描いている点です。
ジルがキャラクター総選挙で競りえたのは、単なるプレイヤーキャラクターではなく一個の主体として描かれていたからに他ならないでしょう。
サイバーパンクで人を描く
VA-11 Hall-Aは人を描く物語を見せることで、人間の性質をある一面で切り取るならば、そこにはどうしようもない断面も美しい断面もありうるのだろうという気持ちにさせてくれる作品です。
世界観を描き出す物語も、プロットを洗練させた物語も素晴らしいものですが、徹底的にキャラクターを細やかに描き出す作品も同じく素晴らしいものでしょう。そういった作品をプレイしたい方にお勧めです。
個人的な感想
ものすごく面白い作品というわけではないんですが、心に残る物語でした。エキサイティングな面白さも、驚天動地の展開もないように、大きく揺れ動く何物かがなかったにもかかわらず、小さな機微がちゃんと心に刺さります。
色々な物語を回収しようとするとゲーム性の無さが牙を剥いてはきますが、それでもちゃんと回収できる程度には物語も雰囲気も好きでした。