マルコと銀河竜: 疾風怒濤の奥に深淵
マルコと銀河竜
値段 | クリア状況 | 実績 | プレイ時間 |
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7800 | 読了 | 15 / 15 | 6時間 |
お勧め度 | コスパ |
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★★★★★★★★★☆ | ★★★★★☆☆☆☆☆ |
筆者がこのゲームを買った理由はたった一つでした。ノベルゲームにカートゥーン調のアニメが収録されているという話を友人から聞いたからです。有り体に言えば、カートゥーンアニメにつられて買ったと言えるでしょう。
その時はマルコと銀河竜という作品が、銀河のように広大でつかみどころのない深淵を持つとは、未だ知る由もなかったのです。
尋常ならざる速度感
スチルは1000枚超 | カートゥーンアニメもあるよ |
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マルコと銀河竜は、ノベルゲームとしては破格のスチルを用い、さらにカートゥーンスタイルのアニメーションまで収録することで、まさにアニメーション的手法によって紡がれていくノベルゲームとなっています。
主人公である記憶喪失の孤児マルコが、ドラゴンのアルコとともに自身の母親の手掛かりを探して地球でドタバタ活劇を繰り広げるのが基本的なストーリーとなります。
なんといってもこのゲームの特徴は怒涛のテンポ感です。尋常ないスチルの物量によって不要な情景描写を極力排した状況の中、ライターによってさらに先鋭化され磨き上げられた速度感は驚嘆の一言です。
余計な描写はスチルに委ねられ、冗長な幕引きはアイキャッチで強制的に遮断され、選択肢を排して一本道にすることで速度をさらに引き上げています。
ギャグを突っ込んでは余計な回収をすることなく矢継ぎ早に展開を進め、一寸先にはシリアスをぶち込んでくるジェットコースターのような感情体験はなかなか味わえるものではありません。
目まぐるしい勢い
テンポだけで押し切ってくる例 | エモい |
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この世界が一巡しそうなほど早い展開を下支えしているのは前述したスチル、アイキャッチ、そして癖の強いキャラクター達です。
勢いだけで突っ走る無鉄砲から、後先考えない楽天家、頭まで筋肉な戦士などの個性豊かな面々が、狂言回しも追いつかないほどのスピードで物語を進めていきます。
加えて、要所要所のシリアスな場面をそれ一辺倒にさせないコメディリリーフのタイミングや、脇道にそれたようでいて本道へしっかり戻すストーリーラインといった構成の妙もあります。
疾風怒濤のテンポ感で流しきってくるストーリではありますが、テンポで展開の雑さを誤魔化している部分は余りありません。
そうして切り替わり、立ち代わり、物語は次第にシリアスに傾いていき、終盤に向けては勢いそのままに今度はエモさでも流し切ってきます。とにかく展開の潮流が早いため、様々な感情の洪水に押し流されて大きな感情が生まれることになるかもしれません。
反芻する深淵
さて、このゲームはちゃんと声を聴いても6時間ほどで終わります。
カートゥーンアニメを期待して買ってみたら思いのほか物語もよかったので、筆者は満足して布団に入って、物語を反芻して楽しもうとしたのを記憶しています。違和感を覚えたのはその時でした。
このゲームをクリアした人に試してみていただきたいのは、このゲームで発生した主要なイベントを時系列順に並べてみることです。
このノベルゲームには選択肢が基本無いので、知らない情報はないはずです。しかし、恐らくこの試みは失敗するでしょう。筆者は布団の中で失敗しました。
その違和感を皮切りに、これまでテンポとエモさで押し流されていた様々な展開が想起されてきました。明らかにずれた記憶と、どう考えたって死んでいるあのキャラクター、終盤のあり得ない展開まで、枚挙に暇はありません。
しかもそれらは単なる脚本の矛盾点には思えず、明らかに意図してそう配されているような奇妙な恐ろしさを覚えていきます。
これらを反芻するうちに疑問と違和感はどんどんと肥大化し、それらの思考を整理しようとしていたら気づけば朝になっていました。
筆者はたまにこの深淵について考えていますし、いくつか仮説を立てて解釈を試みています。いくつかの部分では解釈できているような気もしますが、多くは未解決のままです。
たった6時間のプレイ時間よりも、考察している時間の長い作品になってしまいました。
映像と楽曲も良い
書き忘れていたのでここに補記しますが、お目当てのカートゥーンアニメも良いものでした。
思ったよりボリュームはありませんでしたが、止めと動きのメリハリがついた迫力や線の自由ななびき方、位置を表現するような大胆なカット割りなど、見ていて気持ちの良いものです。
また、マルコと銀河竜は楽曲も良い作品です。
最高潮のシーンで流れる主題曲「飢餓と宝玉」は、それを聞くためだけにこのゲームを起動してサウンドテストでループ再生することもあります。
シリアスシーンで流れる「でんでらりゅうば」というわらべ歌も雰囲気に合っています。なお、でんでらりゅうばという曲を採用したことにすら意味がありそうなのでこれもたまに思い返しています。
疾風怒濤の奥に深淵
カートゥーンアニメにつられて買ってみれば、マルコと銀河竜は怒涛のスチルの洪水で押し流してくる深淵でした。
もはやプレイ時間が飾りに思うくらいには、あれこれ考えたり、思い返してみている時間は長くなってしまっています。
プレイした後に感じる1クールのアニメーションを駆け抜けたかのような読後感と、様々な描写を点検して思いを馳せられる懐の深さが、この作品を素晴らしい体験へと昇華させています。
感想
物語のけん引力というか、突っ走っていき方の完成度が恐ろしく高いです。いくつか勢いで構成される物語を体験したことはありますが、群を抜いて上手く勢いを手なずけています。終盤に手を止められる人はいないんじゃないかというレベル。
いまだに深淵の底は見えないんですが、描写を確認して仮説を立ててみる時間が楽しいのであんまり問題ではないです。物語は一応の終点にたどり着いているので、安心して細部の仮説を考えることができます。
あと、飢餓と宝玉は個人的にだいぶ気に入ったので、ほぼこれを聞くためだけにサントラを買っています。