第14回ウディコン全作品レビュー - 1/∞の奇跡

47. 1/∞の奇跡

ジャンル 作者
ADV 囁ノ葉
プレイ時間 プレイVer クリア状況
1時間30分 1.0.2 全ENDクリア

良かった点

  • 色彩の表現が良かったです
  • 掌編のADVとして良く完成されていました

気になった点

  • 分岐前にそこそこの長さのイベントが走るので、エンド分岐の探索時は食傷気味になります

レビュー

奇跡の行方

1/∞の奇跡は、病室の少女とその担当ロボットの7日間を描いた短編アドベンチャーです。
ロボット技術が発展した近未来を舞台に、少女とロボットとの交流と、その少女にまつわる結末を描いた物語となっています。

基本的には探索アドベンチャーの形式をとっており、物語の比重が大きい作品となっています。
探索要素もそこそこに、少女に話しかけて選択肢を選んでいくことで、全部で五つのエンドへと分岐していきます。

探索アドベンチャーとしてはオーソドックスで、全体としてシンプルにまとまっていながらも、勘所では演出により強く感情が表現されていきます。
殊に要所で差し込まれることになる演出は、色による表現が美しく、病室という白い空間の中でより強く映え、それでいて示唆的に物語へと訴えかけてくるものとなっています。

いくつかのエンディングを経て、奇跡へと辿り着いてはみませんか。

感想

今ウディコンでは掌編ADVが少ない印象を受けていたので、ある意味では貴重な作品でした。
個人的にはこの手のゲームが好きなので無限に出てほしい気持ちがあります。

全体的な印象は色味による表現が美しくて示唆的で良いなあと言うものです。
徹底的に漂白された無機質な空間が、それ以外の色の意味も印象も際立たせています。白が基調であるから映えるというのもありますし、そもそもマップ自体が病室というロケーションであることを上手く活かして、白に類する色調に無機質さを上手く付加していて、印象に強く残りやすいです。
そして、それがゆえに青空の綺麗さが鮮明に印象に残ります。あのエンディングは決してこのゲームの終着点ではないのだろうと思いますが、それでも最も強く心に残ったシーンを挙げるのであれば、あのシーンを挙げたくなります。

加えて、グラフィックも好きで、演出も割と好きです。必要最小限にしか用意されていませんが、物語を構成するには必要十分になっています。
ただ、演出については別ENDのために周回していると大分食傷気味にはなりがちです。
分岐前にそこそこの長さのイベントが走るので、分岐チェックをしていると何度も見ることになります。とはいえ全体のプレイ時間の内10分程度だったような気がするので、かなり厳しいというほどではありません。

また、終わってみると分岐はかなりシンプルなんですが、誘導は少ないので難しめでした。
最初の分岐にあたる例の部屋に入ろうとはあんまり思っていなかった上、どう使用するかという点も謎でした。マップが狭いので総当たりで突破できる範囲ではありますが、その場合はロボットに無意味に話しかけることになります。
筆者の場合は、BAD2の分岐がしばらく分かっていなかったです。

物語というか世界観の話をすると、機械の三原則が硬いから人間側を合わせていこうという考え、なんというか実に日本らしいなという気持ちになりました。この既存の仕組みを抜本的に見直すんじゃなくて、小手先の解釈で誤魔化す感じがそれっぽい。
プログラマー的にも機械の三原則という抜本的な仕様を今更撤廃すると、どういうバグが出るか分かりませんよという気持ちになるので、案外現実的な落としどころっぽく見えるのも面白いですね。
こういった情報は、この掌編で描かれる世界観としてはちょうど良い規模でありながら、そういう歴史が知れるという意味で個人的には好みです。

しかし、この物語は何をもってして奇跡と表現しているんでしょうか。
もし機械が主体的判断をしたことが奇跡ならば、他のENDもTrueであるべきでしょうし。彼女の心が救われたことが奇跡なのでしょうか。ほぼ同等のことが起きていても、Trueにおいてはその結果というか意味合いが異なるので。
現象そのものはその後の行動や結果には強く影響しないけれど、バタフライエフェクト的に確かに何かに影響を与えたということそれ自体が奇跡なのかもしれません。

「奇跡は誰にでも一度おきる だがおきたことには誰も気がつかない」とは楳図かずおさんの作品の言葉であり筆者の好きな作品で引用されている言葉なんですが、ある意味これもそうかもしません。
実際にこれはロボットに起きた奇跡であって、結末もまた劇的に完治したのでなく、当然そうあるべくして治ったというものであるので、これが奇跡とは作中人物には気づかれていなさそうです。