第14回ウディコン全作品レビュー - メトロノームファイト

71. メトロノームファイト

ジャンル 作者
リズム戦闘 二六千里
プレイ時間 プレイVer クリア状況
11時間30分 1.08 クリア

良かった点

  • 忙しなく楽しいゲームデザインでした
    • クラップの存在が特にゲーム性を高めています
  • 敵のギミックや達成条件で各ステージがうまく差別化されています
  • ストーリーの会話劇が軽妙でテンポも良いです
    • ポンポン進む吹き出しUIと、コロコロ表情が変わる立ち絵が効いています
  • 暗めの物語を明るく進行できる良いキャラクター性をしていました
    • 殊にクラウゼがちゃんと主人公をしています
  • 素晴らしい数と質のBGMが収録されています

気になった点

  • 戦闘中のUIは視線が分散しがちです
    • ゲームデザインが複雑な以上、ほぼ不可避ではあります
  • 同じ行動がある場合、どの敵から放たれるものかをクールタイム以外で判別できないことがあります

レビュー

音を楽しもう

音楽は音を楽しむと書くように、リズムに合わせて何かをするということは本能的に楽しい行為です。良い曲に合わせて拍を取るだけでも、テンションは否応なしに上がっていくことでしょう。
一方で、頭を限界まで酷使して何かに取り組んで結実した瞬間は、ある種の中毒的な達成感を味わうことができます。オーバーヒートから解放されて息を大きく吐くような、究極的な緩和が快楽物質を生成しているのかもしれません。
そしてメトロノームファイトは、リズムに乗って意識を限界まで使い切る、双方の楽しさが見事に融合したゲームとなっています。

基本的に、このゲームはステージごとの戦闘をクリアして進めていくことになります。そして、その戦闘は各ステージ固有に割り当てられたBGMとその楽譜に支配されています。

戦闘中は、楽譜の小節ごとに行動が切り替わります。現在の小節が自分のターンであれば、次の小節は敵のターンです。
小節ごとに訪れる各ターンにおいては、その拍子に基づいてリズムよくアローキーを押して行動を決定することができます。拍を間違えたり、無効な入力を行うと失敗扱いになるので、上手くリズムに乗って戦っていきましょう。

行動は主に攻撃、防御、行動順操作の3つが存在します。敵を倒すには攻撃を行い、次の小節の敵の攻撃を防ぐには防御を行い、敵の行動順を制御したいのであれば行動順操作を行っていきましょう。
各行動はそれぞれ異なるアローキーに割り当てられ、小節中に入力した回数によって威力が変わります。それ以外の余剰は、下キーの入力で補うことになります。
例えば、4拍子の場合は攻撃、攻撃、下、下と入力すると威力2の攻撃となりますし、下、防御、防御、防御ならば、威力3の攻撃までを防げます。

ここまでならば威力最大を狙えばい良い所ですが、そうは問屋が卸しません。
各行動は対応する音符を消費してしまうので、闇雲に使っているとすぐに枯渇してしまいます。敵の体力や次の行動を把握し、適切な回数の入力を心がけましょう。
なお、必要であれば全ての拍で下を押すことで、一定間隔で音符の補充ができます。タイミングを見計らって、適宜リロードしていくことも重要な要素です。

これだけでも忙しいですが、加えて楽譜にはクラップという概念も存在します。
特殊なマークの時にENTERキーを押すことで、後続の小節のターンを奪うことが可能となっています。これは行動回数が増えるのみならず、後続にあった敵の攻撃を丸ごと消してしまうという利点もあります。
つまり、相手の行動順を上手く制御してクラップの後ろに持ってくれば、防御すらせずに無力化することができるという寸法です。

このように、必要最小限の攻撃で敵を倒し、必要最小限の防御で敵の攻撃を防ぎ、一部の行動はクラップの後に行動順を制御してそもそも封じと、敵の行動やこちらの音符数を勘案して常に思考を続けつつも、リズムには常に乗っていく必要があります。
かてて加えて、この戦闘は敵を倒せば終わりではなく、これらの要素をフル活用して、各ステージの達成条件を満たしていくことが目的となっています。

ある時は敵を倒した数が求められ、ある時は被弾を減らして体力を残すことが求められ、ある時はミスせずにコンボをつなぐことが求められるため、そのステージによって専用の条件を満たすための行動をしていく必要があります。
考慮すべき事項の多さの前に、頭は常にフル稼働することでしょう。

そうした頭を悩ませる戦いの清涼剤として、サビというシステムも用意されています。
特殊なクラップマークの時に入力を行うことでサビに入ることができ、一定時間音符が無制限になるほか、上手く後続のクラップを決めると四回連続行動ができるようになります。
色々なことを気にせずに、サビで一気に敵を倒す解放感を味わえるでしょう。

リズムを外さないようにしつつも、自分の状況と相手の状況を俯瞰し、それぞれのステージBGMに紐づいた楽譜の性質を活かすことがクリアのカギとなります。
条件達成を目指して果敢にチャレンジしていきましょう。

そうした楽しい戦闘システムに加えて、個性あふれるキャラクター達の軽快な会話劇で繰り広げられるストーリーもまた魅力の一つです。
世界観はややダークなものでありながら、コロコロ表情の変わるキャラクター達の掛け合いの明るさと、音楽のリズムに乗って遊ぶ楽しさで暗い気持ちは吹き飛ばされていくことでしょう。

素晴らしいBGMの数々にノリながら数多のステージを攻略し、最後まで音を楽しんで敵を捌いていきましょう。
難しければ燃える方も、音楽に乗って楽しめる方も、どういった方でも楽しめるお勧めのゲームとなっています。

感想

間違いなく楽しく、そして間違いなく難しいゲームでした。
何度も挑戦するけれど楽しいから突破できるタイプの難易度をしています。

今回のウディコンで一番良いゲームがどれかと問われると色々と迷うんですが、最も面白かったゲームはどれかと問われると間違いなくこの作品になります。プレイ時間の11時間30分ずっと楽しかったです。
というわけで多分感想は長くなるので、とっ散らからないように要素に分けて書こうかと思います。

何はともあれ、まずはゲームシステムの話になります。
リズムゲームと何らかを組み合わせるというのは Crypt of the NecroDancer やヨイヤミダンサーズのように、割と作品例がありそうです。リズムをとること自体が本能的に楽しい行為なので、リズムをとってうまく行動できるゲームが構成できると楽しくなりがちに思えます。
メトロノームファイトはコマンド戦闘をかけ合わせたパターンの作品であり、コマンド選択部分と融合しているので、忙しさとそれを捌き切った達成感があるように感じていました。

基本的にこのゲームはめちゃめちゃ思考が忙しくなります。
まず、楽譜を見て小節を確認してリズムをとりつつ、相手の行動や音符の位置なども確認する必要があります。
次に、コマンド実行後の音符残量は常に把握しておく必要があります。
加えて、ステージによっては敵の位置も確認が必要であり、かつWASDキーで照準を合わせる必要があります。
最後に、常に意識の端にはこのステージで達成すべき条件を置いておく必要があります。必要であれば、条件達成数も逐次チェックします。
小節とその上のアイコン、音符残数、敵の位置と行動、達成条件、と確認要件が非常に多いので、常に脳みそを使い切っていないとクリアがおぼつきません。その分、クリアした時の達成感は焼き切れるレベルです。

プレイ中は、これらのシステムは足し算で構成されているのかなと朧気に考えていました。
最初にBGMの拍に応じたコマンド入力による戦闘があって、それだけだと4攻撃4防御が安定するから残弾数が入り、敵が一体だと作業っぽくてバリエーションがないから複数に増えて、やはり毎回倒すだけだと味気ないので達成条件が入ったのかもしれません。
実際、ステージ数はそこそこありますがどれもバリエーション豊かで、各々の達成条件が違うところもあって、毎回遊びの方針が変わって楽しめました。

加えて、一つのゲーム中でも小節に対してリズムを交互に取るだけでは定常化してしまうところ、クラップを中心に動きの変わる箇所が仕込まれているのも良いです。
攻撃や防御だけが安定択ではなく、適切に行動順を制御してクラップで打ち消す必要も出てくるあたり、常に考えるプレイが要求されます。
さらに、そうしたクラップそれ自体の戦略性もさることながら、サビでひたすら殲滅できる爽快感があるのも好きでした。

一方で、やることが多い分難易度は恐らく高いです。慣れるまでは序盤のステージでさえ苦戦します。
ただ、最初の内は相手の数が増えただけでもあわあわしていたんですが、プレイを続けるうちに譜面と対象を見る能力がどんどんと向上してきました。プレイヤースキルの向上ってこういうことなんですね。
意識を配る場所は多いんですが、意識を配る順番や、相手の行動に対する定型的なやり方が染みついてくると、意識配分が上手く回るようになります。卓越とは技ではない。単なる慣れだ。繰り返し行うことで体得する。

また、敵のギミックが色々とあるのも外せない面白いところです。
ただ大声出して邪魔してくるやつから、音符への干渉、分離合体と色々としてきます。様々な要素が詰め込まれていることを活かして、ゲームシステムをこれでもかと使い倒していました。
個人的には、お祭り男のギミックのが好きでした。ただ邪魔なだけ。

続いて、UIというか若干UXっぽいところについても触れておきます。
マップの構成や移動周りのUIは簡素で好みでした。マリオ3みたいな形式で移動はスムーズに行われ、必要な情報は選択しなくても画面上に表示されています。一番欲しい達成状況が、ちゃんとアイコンに明示されているのも配慮がなされています。
メニュー画面がShift長押しから選択する形式なのは若干面喰らいましたが、慣れればそれほど使いにくくはありません。

ノベルパートはデザインも込みでかなり良くて、ストーリ進行の会話劇のテンポの良さを際立たせています。
マンガの台詞めいた吹き出しをしているので、どちらが話したかが視覚的に一発で分かり、くるくる変わる立ち絵もあって、その発言の状況が一目で理解できます。そのおかげで、会話送りがスムーズに進んでいきました。

戦闘パートについては、要素数が多い中ではそれなりにまとめられているUIになっています。
ただ、いかんせん目を配るべき要素は多いので、プレイ中はかなり視線が散ることになります。敵の行動確認と選択は左、小節確認は上、残数確認は右を適宜見つつ、必要であれば左上の達成条件も見る必要があります。
この中で最も確認するのは小節というか楽譜になるので、ここ基点で目を動かせるようになっているとやや楽だったかもしれません。画面の面積的に無理な気がしますが。
後は、達成条件はそれなりに重要な情報なので、自然に目に入る所に置きたいところだと思うんですが、スペースが無くて左上なのも厳しいです。3つでなければ楽譜上のスペースにねじ込めそうなんですが。

また、敵の行動自体は楽譜に載るんですが、どの敵の行動かまでは特定しにくいのがやや辛いところです。
楽譜情報と敵の確認の双方が必要なうえ、同じ敵がいる場合はどっちの行動かはクールタイムに基づいた推測が必要になります。選択している敵の攻撃アイコンが光るなどすれば緩和するのかもしれませんが、ただでさえ情報が詰まっている楽譜にこれ以上情報を載せるのも厳しいかもしれません。

全体的に、プレイヤー側が視線や意識の配分に慣れてくればそれほど気にはならないんですが、特に初見での情報選択は難しい印象でした。ただ、要素数が多いからバタバタしたのか、視線が移ろうからバタバタしたのか、あるいはその両方なのかは不明です。多分相乗効果だとは思っています。

次に、キャラクターとストーリーの話をします。
物語のベースはそこそこ悲惨で暗めなものに見えるんですが、キャラクターが明るいので中和していて、テンポの良い会話劇であることも相まって、重い気持ちで読むことにはなりません。基本的にゲーム性がBGMのリズムに乗って楽しく遊ぶものなので、物語がそれに水を差してこないというのは大きかったです。
また、登場人物全員が無駄に話し込んだりしないので、とにかくスピーディーに事が運びます。各キャラクターのノリが軽くて良いのも作用していそうです。

また、クラウゼのクラウゼらしいところは残りつつ、成長もする物語であるところも好きでした。ちゃんと主人公しています。
後は、レネがいいところでサポートキャラの立ち回りをしつつ、ずっとキャラクターを崩さないでお兄さんをやっているのも良いですね。クラウゼくらい感情豊かなキャラが相手だと良いペアをしています。

他方で博士は物語が進むにつれて、なかなか感情移入というか共感しにくくなっていき、最終的には塔の出来事から察するほかなくなります。その上でも、やっている所業がやっている所業だけに、やはり共感はしにくいです。まあ実質的なラスボスなのでそれで良いのかもしれません。

最後にグラフィックや収録された数多のBGMの話もしようかと思います。
キャラクターの個性を存分に補強する良いグラフィックをしています。先述しているように、立ち絵で感情が表現されているので場面場面の理解が非常にスムーズに進みます。
それでなくても、コロコロ表情が変わるキャラクターには愛着が湧いてきます。大げさな感情パターン差分が良いですね。

また、敵のグラフィックもバリエーション豊かです。それぞれ敵っぽい見た目ながら、ポップな印象も崩していません。
しかも、いちいちリズムに合わせた攻撃モーションまで用意されています。手が込んでいる。
その上、技や性質に対する納得感もある見た目でもあって、見ただけでも直感的に性能が理解しやすいです。このあたり、アイコンがあるとはいえ重要なところなので、殊に初見では有難いものでした。

そして、このゲームを語る上で豊富なBGMを外すのは不可能でしょう。
正直、このゲーム性で2時間程度にまとまったボリュームのほうがウディコン向きなんじゃないかとは思います。それでも、曲を詰めに詰めて作り上げられたこのボリュームが好きです。
全てのBGMに対して楽譜を用意し、それぞれの特性ごとにステージを作っていく労力は凄まじいものだと思います。それが惜しげもなく詰め込まれているというのが凄い。

しかも、これだけステージを作り込んでいて、ある程度はスキップも許される構造になっている思い切りの良さもあります。これだけ作ったら遊んでほしくなりそうなものですが、そこはユーザーフレンドリーにやりたいだけ遊べるように作られています。
実際、私は全曲やってたのでクリアまでには11時間30分かかっていますが、色々すっ飛ばせれば大分早く終われそうでした。

なお、筆者の好きな曲はオトリズムでも触れたんですが、Trick Style です。
印象に残ったのは難しさでいえば8-6のCrazyHill、拍が難しかったのはまぼろしでした。
他にもいろいろとテンション高めの曲がそろっているので、BGMのリストとして見ても良いゲームです。もちろん、いくつか落ち着いた曲調のものもあります。

個人的には、コントローラーに対応して色々整えればSteamに出して普通に売れそうに感じています。タダで遊ばせてもらっていいんですか、これ。