第15回ウディコン全作品レビュー - 不屈のスペラ

12. 不屈のスペラ

ジャンル 作者
デッキ構築ローグライク テイク
プレイ時間 プレイVer クリア状況
2時間 1.02 HARDクリア

良かった点

  • 最初に選んだ妖精のパッシブを軸にデッキビルドしていくのが楽しいです
    • 程々のランダム性と戦略性が備わっていました
  • ピンチをチャンスに、というシステムにより、意識的にハイリスクハイリターンの選択が取れるようになっています
  • プレイヤーが選択する要素を極力省いているため、サクサクとゲームを進行できます

気になった点

  • デッキ枚数に対してややカードプールが薄く感じました
    • HARDクリアまでならそれほど気にならないレベルではあります

レビュー

ピンチをチャンスに変えろ

不屈のスペラは、RPG風の戦闘をカードで行って進めていくデッキ構築型ローグライクです。
戦闘やイベントで増減するHPというリソースを上手く活用して、40層からなるステージを攻略することになります。

ステージ 戦闘

挑戦するステージは手前3マスから発生するイベントを選択する形式となっています。
敵と戦ってカードを集めるもよし、ショップでHPを消費してカードを買うもよし、特殊なイベントで何かを得たり、回復するといった手段も取れます。現在のデッキの状況や自分のHPと相談しながら、最適な行動を選択していきましょう。
先の状況が前方5層まで確認できるため、先々のマスを見てプランを定めるのも肝要になってきます。

ステージを進む上で避けられない戦闘においては、それまで集めてきたカードによるデッキで挑むことになります。
現在のMPを消費してカードを選択し、敵に攻撃していきましょう。カードは、消費するMP、状態異常や攻撃対象、攻撃性能が異なってきます。特にMPを多く消費するカードは強力ですが、MPは原則毎ターン1ずつ増えていくため、強力なカードばかり集めるとデッキが重くなってしまいます。コストとバランスを意識して、自分なりのデッキを構築していきましょう。

また、デッキ構築にあたっては最初に選択する妖精のスキルも重要です。
被ダメージ軽減や回復スキルから状態異常の強化まで、それぞれの妖精が持つスキルに合わせたデッキ構築を目指すことで、高いシナジーを得ることができます。

そうして取捨選択してデッキを構築しつつステージを攻略していくと、当然ながらHPは消耗していきます。そうなった場合、回復マスやカードの効果でHPを回復させることで継戦していくことになりますが、このタイミングは慎重に見極める必要があります。
このゲームにはピンチをチャンスにという仕組みがあり、こちらの被ダメージが大きいほど攻撃性能が倍化していくためです。HPがギリギリになるリスクと引き換えに、高い火力を得ることができます。特にボスなどの強力な敵を相手取る時は、どのタイミングで回復し、どのタイミングで強いカードを切るかの戦略性も求められてくるでしょう。

こうした様々な要素が一体となったシステムは一見複雑に見えますが、手厚いチュートリアルとテンポの良いゲーム設計で、プレイしていくうちに自然とマスターできます。
言葉を尽くすより遊んでみた方が分かりやすく楽しいものとなることは請け合いなので、安心して妖精に合ったデッキを上手く構築し、最後のボスまで打倒していきましょう。

感想

序盤丸々チュートリアルに使っている思い切りの良さも含めて、かなり導線が丁寧なゲームだなという印象がありました。シナリオもそれに沿って動いていますし、難易度解放時にちゃんと要素解法演出もついているので、一貫した気持ちのまま最後の難易度まで挑戦できます。

デッキ構築型ローグライトとみると、DungeonMakerとかその辺に作例はあるんですが、この分岐型カード選択による行動の選択はやっぱり面白いです。先のプランをある程度こちらで決められるという戦略性と、不測の事態があった場合のリカバーも効くという即時性もどっちも加味されています。
ここに加えて、マス配置の都合上ある程度のランダムと決定性をどちらも付与できるので、要所のイベントは制御しつつも何度か遊べるリプレイ性も同時に担保していました。
また、マスが戦闘、強敵、ショップ、イベントとシンプルなもので揃っているのも良くて、ある程度簡単に予測できつつも、イベントというランダム性の高いものも含めて幅を持たせているように感じました。

デッキ構築の面で言うと、正直な話カードプール自体は狭めな印象を受けたんですが、妖精というパッシブ要素を軸に組み立てられるところで掛け算的な広がりは担保されていました。
特に妖精を最初に決められるのは面白くて、最初に自分でどういう方向性にビルドしたいかある程度考えて進められます。何もない地平から考えるのも面白くはあるんですが、軸が一つ定められているほうが迷いが少なくて助かりました。
妖精解放タイミングについても良くて、ある程度ゲームが分かってきたら増えて、大分理解が進んだらさらに増えます。応用タイプみたいな妖精が後に回されるので、その能力を使うイメージが湧きやすくなっています。

続いて戦闘システムの話をします。
全体的に余計な選択を省いたデザインになっていて、これがゲーム全体のテンポ感の向上にかなり寄与している印象があります。
カード選択時に対象を選ぶ工程がないというのもありますし、序盤はカード入れ替えが勝手に行われていくというのもあります。これによって、40層程度あっても30分もあれば辿り着けるようになっています。リプレイ性の高さには、このテンポの良さが間違いなく効いていました。

また、前作にもあった最大MPが溜まって徐々に強いカードが使えていくシステムも、かなりうまく機能していました。
雑魚との戦いは大体序盤のMPで終わりますし、ボス級との戦いでも、序盤は状態異常を撒いたりカードを補充したりと明確にやることがあります。低コストカードでも明確な役割があるので、どのターンでも考えて行動することが必要になってくる良い仕組みとバランスでした。

細かいところだと敵のタイプ表記が出ているのも良くて、初見の敵であったとしても、どういう順番で倒すのが理想かをある程度組み立てやすくなります。
対象選択の工程は省いても、そこにカードごとの特性を持たせるあたりや、この辺のタイプ表記あたりからも感じられるんですが、可能な限り考えて戦えるように制度設計されている印象を受けました。
簡単に操作できて、テンポを良くして、その上でちゃんと思考を回す余地を残すのは割と難しそうですが、その辺が上手くカバーされたデザインです。

個人的に好きだし発明だと感じたのは、ピンチをチャンスにという機能です。平たく言うとダメージを受けてるほど火力が伸びるんですが、これにより低いHPでも敵に挑むことのインセンティブが確保されていました。
特に序盤において、回復に傾倒せず出来るだけ敵を狩ってカードを取得するチキンレースをして手札を集めていく、というのがデッキ構築型ローグライトの強いパターンですが、システム的にこれをプレイヤー側に後押しする仕組みだなと感じています。
また単純に、ボス戦などでピンチになった時に最大火力のカードを温存しておくと勝てる、という熱い要素でもあります。どこで大火力カードを切るかの駆け引きも生まれますね。筆者はラスボス相手に2桁残したギリギリの状態で全火力を投じて勝った時が一番気持ち良かったです。
その分ダメージ計算が難しくなる面はあって、確定一撃とかの計算はちょっと難しくなるかなとは思うんですが、ゲームの設計上数値が大きい上にぴったり合わせるタイプでもないのでマージンをとれば調整できるようにはなっています。予想ダメージ表記も出ますしね。

全体的な難易度はやや易しめかなというレベルで、HARDで(自分のミスで)1回敗北はしましたが、それ以外はそのままクリアできるバランスです。通した印象としては、クリアできるように作られたバランス、くらい。
よっぽど不運を引くと怪しいのかもしれませんが、序盤でデッキ構築に失敗しない限り中盤以降は安定する感じはあるので、失敗するとしても序盤の範囲に収まりそうです。序盤ならリトライも楽ですね。

NORMAL HARD

筆者のプレイ履歴としては、NORMALはシルフ、HARDはバンシーで突破しました。
シルフクリア時は悪魔契約、ヘブンズウィング、救済による回復可能な設計で突き進んでいます。持久型にはめちゃんこ相性が悪いんですが、継戦能力は極めて高く、回復マスはほぼ踏むことなく最後までたどり着くことができました。大ボスで火力が足りず、オーバーライブラリーアウトしかけたのはご愛敬。
バンシークリア時は、とにかく強力な5コスト以上のカードで埋めてぶっ放すデッキを構築しています。救済などの5コストカードはあえて合成しないくらい徹底しました。その性質上被弾は多めになるんですが、そこはグングニルによる大量回復でしのぎつつ進めています。被弾が多いのを逆手に取って、ラスボスではギリギリまで被弾してからウンディーネをぶっ放して蹂躙しました。
このデッキ構築は性質上カードが揃わない序盤が一番しんどく、そこで無理した結果の一敗でした。

シナリオの面にも触れておくと、ストーリーが必要ラインでちゃんと描かれていて、ゲームのテンポを損なうことなくモチベーションにはなるレベルの塩梅に落とし込まれていました。
特にオープニングから開始までの流れが良いです。ここでキャラ紹介とばかりに会話劇が入るとゲームに入るのが遅れるんですが、ここをチュートリアル中に会話で進めていくことでカバーしています。実際にゲームを遊ばせつつ、キャラクターからのアドバイスを通じてその性格を描写していました。
色味的にも性格的にも某っぽいアレなのかと思っていて、そのくらいのテンションと世界観なのかなと考えていたら、まあまあなシリアスをお出しされて驚いたのも良かったです。あの入りで、腕切るレベルのシリアスが来るのは意表を突かれました。

このゲームについては、個人的にはHARDまでちゃんとやらせるゲーム性としての完成度が高いと感じています。
冒頭で触れた導線の丁寧さもあるんですが、NORMALがクリアできないとHPが増える仕組みがあるらしいことや、そこから先ではシナリオ面でここで止めると後味の悪いところで切るようにしているところなどにより、とにかく最後まで遊ばせる牽引力が仕込まれています。もちろんこれは全体的なテンポ感の良さ、それにも関連したリトライ性の高さなどの総合力からなせる業でもあるんですが。
現に、NORMALクリア時に作者さんの想定はここだろうしHARDはいいかとなりがちな筆者が、何の疑いもなくHARDを即時に始めてクリアまで遊んでいます。あそこで止められないですからね。