第15回ウディコン全作品レビュー - アドリブ・ロール

32. アドリブ・ロール

ジャンル 作者
ロールプレイングゲーム Masaqq(マサック)
プレイ時間 プレイVer クリア状況
45分 108 ノーマルクリア

良かった点

  • 行動のログが物語を作るという体験が面白かったです
    • 対応するテキストもバリエーション豊かに用意されています
  • 攻撃択のカードがそのままHPにもなる戦闘システムは斬新で楽しかったです
    • カードを大量に消費すると強い代わりに脆くなるという、リスクとリターンの関係が成り立っていました

気になった点

  • 戦闘にかかる経費の内訳が不透明なので、経費削減の具体的方針が立てにくい印象がありました
    • ノーマルなら削減を大きく意識する必要はなかったので、些細な話ではあります

レビュー

ロールを演じよう

アドリブ・ロールは、ロールを演じてシナリオを進め、戦闘を経てクリアを目指すロールプレイングゲームです。
映画の撮影というゲーム設定に則り、プレイヤーが自ら役割を演じて進めていく斬新なゲーム体験が得られるものとなっています。

プレイヤーは映画撮影という形で各エリアで戦闘をこなしつつボスを選んで戦って攻略していき、ラスボスを打倒することを目指します。
この一連の流れは全てRPGの撮影なので、様々なイベントからボスとの熱いバトル、雑魚とのちょっとした戦闘まで、その道程は全て文章として残り、自分だけの物語となって記録されていきます。
プレイヤーの一挙手一投足がきっちりログに残る中で、思い思いのプレイをして自らの物語を紡いでいきましょう。

戦闘画面

また、このゲームは戦闘面においても斬新なシステムが搭載されています。
戦闘が始まると、攻撃や強化、回復と言ったスキルを示すカードが配られ、このカードの中から選択して行動を決めることになります。ターン消費無しのカードを除き、原則選べるカードは一枚です。
そうしてプレイヤーの行動が終わると、次にくる敵のターンでは味方に攻撃が飛んできます。この攻撃で発生するダメージは、配られたカードを減らすことで表現されます。4ダメージなら4枚のカードが奪われるわけです。全てのカードを失うと戦闘不能になります。
すなわち、カードは攻撃の選択肢であると同時に、防御の壁としても機能するという設計になっています。

この戦闘システムにおけるドローは選択肢を増やすという価値があることに加え、耐久を上げるという意味も持ちます。防御は一般にやりすごしの択に思われがちですが、このゲームでは回復のようでもあり、選択肢を増やす行動でもあるような特殊な立ち位置として、戦略の一部に組み込まれています。
また、カードの位置も重要であり、次に使いたいカードをダメージで消えない位置に上手く配置できると戦いを有利に運べます。
このように、配られたカードを中心とした戦略性の高いバトルが繰り広げられることになります。相手の行動や対象に取る条件は常に見えているので、その情報を鑑みて戦略的にカードを選んでいきましょう。

なお、配られるカードの質や、そもそものステータス性能はレベルと装備によって培われます。装備は戦闘や店などで取得可能です。レアリティの高い装備はカードの面でも性能の面でも優秀なので、見つけたら積極的に装備するのがお勧めです。

自ら役割を演じ物語を紡いでいく斬新な物語体験と、斬新な戦闘システムのゲーム体験が合わさった作品となっています。
見事撮影を無事に終え、ラスボスを倒した暁には自分だけの映画が出来上がっています。全てが終わってログを眺めるまでがアドリブ・ロールです。自分で紡いだシナリオを見てみましょう。

感想

文字通りロールプレイするゲームというのが斬新で、ゲーム体験としてずっと面白いゲームでした。行動がログとして残るのも良くて、役割を演じた後にその物語を後で追うこともできます。
雰囲気の指定やら細かいテキストの用意などで、諸々のシステム的な側面においても演じられた物語というものを表現しているので、心行くまで遊べました。イベントの選択や戦闘の状況に応じて、ちゃんと個々人の体験が特殊化されていくのも好きです。

戦闘システムもかなり斬新で、これ単独だけでもギミックとしてゲームを作れるんじゃないかという水準を余裕で越えたところにあります。
攻撃択を防御の値ともみなすシステムが面白く、ただ攻撃カードを選んでいくだけでも戦略性が生まれます。事実上はHP消費攻撃みたいな立ち位置に思えますが、カードの位置にも意味があったり、強化即攻撃のようなリスクリターンの見合った択が用意されていたりと、そのバリエーションはただ自身の耐久を削って出す技という印象に留まりません。

その上で戦闘のテンポも良く、かなり火力高めの調整がされているのかサクサクと敵を倒していくことができます。ボス戦も決して長引かず、それでいてカードによる小さなHPの削り合いであるが故の接戦している感覚も得られます。
こうしてテンポと戦略性を両立しつつ、カードの組み合わせによるコンボダメージみたいな気持ち良い要素も完備されているので隙がありません。

難易度もやや緩めで楽しみやすく、ノーマルでは適度に苦戦しつつも危なげなくクリアできる調整となっています。ノーマル専用の仲間がいて、これがべらぼうに強いので爽快感をもってクリアできました。
そこでシステムを学習して詰めたくなる人向けに高難度も用意されているので、そのあたりも至れり尽くせりとなっています。

戦闘面で唯一分からなかったのは戦闘に使っているお金で、何をした結果発生しているのかが最後までいまいち分からないままでした。もしかしたら説明を読み飛ばしたのかもしれません。
ノーマルで遊ぶ分には経費削減をそこまで気にする必要はないので、ハード以降で詰める時に考えればいいという話ではあります。

物語というかログに話を戻すと、テキストの行き届き方がかなり印象的でした。2ターンで魔王を倒せばわずか2ターンでの決着、のようにそれっぽい文章を付けてくれます。
このあたりの定型だけど自身の体験に確かに紐づいたテキストの組み合わせというのが、まさしくロールを演じるという設定に貫徹していて、遊んでいて納得感があります。

ログの中では、連携名がちゃんと残ってくれるところとか、逃げたら逃げたログが記述されるところとか「スタッフが尺稼ぎに困っていたようだ。」みたいな設定としてのメタも組み込まれたところが好きです。細かいネタっぽいのが好きなのかもしれません。
あと、このログは最終的にhtmlファイルとして吐かれる当たりも手が込んでいて良いところですね。

周回要素も結構あり、イベントの分岐やら仲間の種別もある、割かし周回前提の作りのような作品となっています。それ相応に一回のプレイ時間はテンポの良い戦闘により短めに収まっているので、とりあえず一回遊んでみるのが良いんじゃないかなと思っています。
自分の物語を行動から紡ぐという体験も、カードを基軸にしたシンプルで遊びやすい戦闘システムも楽しめる良い作品です。