第15回ウディコン全作品レビュー - オカルトノート 土雲ガクレ編

43. オカルトノート 土雲ガクレ編

ジャンル 作者
ホラー探索ADV カッパ永久寺
プレイ時間 プレイVer クリア状況
3時間 1.04 トゥルーエンド

良かった点

  • 神話を丁寧に取材した上で題材としているためシナリオに深みがあります
  • 探索と推理パートが上手く噛み合ったデザインでした

気になった点

  • 誘導がだいぶ薄めなので、探索を手厚めにする必要がありました
    • マップ自体は広いので大きな問題にはなりません

レビュー

論理的に怪現象に挑む

オカルトノート 土雲ガクレ編は、ホラー要素がある探索アドベンチャーゲームです。
現代の家を舞台とし、古代からの闇で塗り固められた土雲の怪異の調査を行っていくことになります。

ゲームの進行はオーソドックスな探索ものとなっており、クローズドな家の中を探し回ってアイテムなどを見つけては物語を進めていくというものです。
その中で、探索ものとしては定番である謎解きや追いかけっこといったものから、シナリオ進行にかかわる推理パートまで、プレイヤーは様々な要素に挑むことになります。殊に、推理パートではこれまでの情報を整理して、論理的に怪異の正体を導いていくことが求められます。思考を巡らせ、怪異の謎を突き止めていきましょう。

また、このゲームにおける圧巻は何といっても古代史や神話の類に裏打ちされた確固としたシナリオです。バックボーンが綿密であり、それに下支えされた確かな土台の上で組み上げられていく良質な世界観と物語が展開されていきます。
表の筋をコメディ要素と王道的展開でもってエンターテインメントとして完成させつつ、古代から伝わる怪異を現代ナイズして解釈したアレンジをその背景に加えることで、楽しみつつ濃厚な世界を体験するものとなっています。

基礎をオーソドックスな探索アドベンチャーで固めつつ、展開と背景共に優れたシナリオでもって構成された作品です。
エンディングは7種類あり、行動に応じて変化していきます。論理的な推理をもとに、良いエンディングを目指していきましょう。

感想

知識に裏打ちされた物語が個人的に好物なので、古代史や神話の類に対して解釈を交えつつゲーム向けにアレンジして語る、この物語構成は好きです。
日本神話は特に神の名前をあんまり覚えられていない都合上、割とあやふやだったりごっちゃになっているところがあるので、その辺のおぼろげなところを突いてくるのもあって良かったです。あの辺り、無為の神という中空構造があって絶妙に覚えにくいんですよね。

ゲーム性はホラー探索をオーソドックスに作り込んだ印象で、そこにエッセンスとして推理要素や古代神話要素が入っていると感じました。
ホラーは本質的には未知に対する恐怖を主眼に置くことが多いので、そこに対して論理的に立ち向かうというのは面白かったです。ホラーそのものの要素はありつつも、ちゃんと論理的に事件を導こうとしています。

推理パートは論理的なものではあっても論理パートではなくて思い出すパートであり、どちらかというと証拠集めのほうが大事になっています。
この辺りのヒントは薄めなので探索を厚くする必要のあるゲーム性になっており、ちゃんと隅々まで調べないとアイテムが見つからないようになっているなあという印象がありました。ただ、家というか対象マップは狭いので調べつくすのにそんなに時間はかかりません。

推理面では、マップチップの関係ではあるんですが、あの穴が通れるように見えなかったり、首を落とせるように見えなかったりはするものの、その辺は口頭で推測がなされることで推理必須要素から外すことで上手くカバーしています。
しかし、最終的な推理が全部正しいとすると、ヨウカ達がうろちょろしている時間はまだ母親は2階にいたんでしょうか。順序的にはおばあちゃん演技、母親になすりつけようとする、なのでその段階では睡眠薬を盛る理由が無いので。
もっとも、双方後ろ暗いところがあるので、そうなっていても違和感はありませんが。

シナリオの面でも個人的に好きな推理要素を抜きにしても面白く、どんでん返しも熱い展開も用意された至れり尽くせりのものとなっています。
腕の件を見てしまうと、扉が開かないのもまた思い込みの力であり事件を誤解していたという事実も相まって、ここまでの事象がマロンの思い込みの力かもしれないというミスリードも働いていました。ただそうするとおばあちゃん問題が解決しないので、これは筆者のミスリードかもしれません。

悪意という毒は何物をも侵すものだというのはSound of Dropなどでも言及されているところですが、物語展開に対する意識外からの作用として強力だなと感じています。思い込みを打破するのは作劇として優秀なところです。
それにしても、政治的主張はないとの但し書きについては、まあ確かに取り扱っている題材だけに必要そうですね。ほとんどリアリティを付与するための道具みたいな扱いではありますが。

後は怪異の扱い方も割と好きで、怪異もまた現代ナイズされているからLINEのような通信媒体で呪いを伝播させてきます。この辺は、玉藻の前が現代ナイズされてネットワーク越しに悪意をばら撒こうとしている作例があるように、現代においての怪異に向き合っていて個人的に好きなポイントでした。
良く分からない因習村もそれはそれで怖いですが、現実に地続きの所に潜んだ恐怖もまたホラーとしては秀逸ですからね。

入念な取材なり知識なりが裏に垣間見える設定をバックボーンに持ちつつ、シナリオそのものは決して難しくなり過ぎないように設定を上手く使いこなしているのが素晴らしい作品です。
重厚に手をかけて作ったであろう設定を押し付けるのではなく、あくまで背景として運用して目立たせず、シナリオに深みを持たせる付加装置として機能させているというのが個人的な推しポイントになります。押し付けないけど感じ取れる厚さって良いですよね。