第16回ウディコン全作品レビュー - なかよ4こよ4 4人の中に×人鬼がいる?

24. なかよ4こよ4 4人の中に×人鬼がいる?

ジャンル 作者
ノベル カッパ永久寺
プレイ時間 プレイVer クリア状況
1時間 1.00 TRUE END

良かった点

  • 不安定な中で描かれる物語を楽しめます
  • 日常パートとそれ以外の配分がちょうど良かったです

気になった点

  • 回収されない要素があるような印象を受けました
    • そういうシナリオであると解釈することもできる作品ではあります

レビュー

なかよしな日常

なかよ4こよ4 4人の中に×人鬼がいる?は、ホラー要素を含む短編のノベルゲームです。
記憶喪失の主人公を中心とした、いつもの日常が描かれていきます。

主人公は、記憶喪失の前から友達だった3人と共に、以前のような日常を送るために学校生活を進めていきます。
何か不穏なことがちらほらありますが、それはそれとしてなかよしな日常を見ていきましょう。

恐怖を与える表現はもちろんのこと、あらゆるものを疑いたくなる不安定な描写の中で紡がれていくシナリオが特徴的な作品です。
何かがおかしい日常を覗いていきましょう。

感想

終始信頼できない語り手をやるので、ずっと不安定な足場の上で組み上げられた作品を読んでいるような印象の作品でした。ホラーにぴったり。
どこまでの情報を真実とし、どこまでの情報を誤りとみなすかによって色々解釈は変わりそうではあります。個人的にはある程度第三者視点を信じるのが良さそうだなと感じたので、おおむね刑事さんの推測を当てにしていました。

こういうタイプの作品は日常パートをどれくらい描くかが割と難しく、長すぎるとだれる一方で、短すぎると日常の浸食を充分に表現できないままホラーに突っ走ることになってしまいます。
一度ホラーパートに入ると日常パートに戻ってもホラーの残滓が残り続けるので、自然に最初にやる日常パートの尺が大事になります。
この作品におけるそのあたりの塩梅はちょうど良く、ギリギリだれない範囲で日常パートを描いていたように思いました。そもそも最初にホラーを突っ込むことで助走をつけていたというのもあります。まずは死体を転がせというのは、ミステリー小説の基本みたいなところがありますね。

一方で、解釈の幅を広げるためなのか、最終的にあんまり回収されない宙ぶらりんな要素もそこそこある印象がありました。
顔のない追跡者、突き落とした気になっている理由、京先輩周り、この辺の掘り下げは余りなされません。あくまでも、主人公の周囲に発生する事象がメインなので、世界や他者にまつわるあたりは突っ込んで話されないというのはあります。
全部妄想にすぎませんでした、もまた解釈の一つではあるんでしょうが。

中でもメモ書きは誰が残したのか、はどう解釈するべきか迷っているポイントです。あの時点では恐らくループが始まっていないはずで、そうだとすれば誰が書き残したんでしょうか。犯人がいるとして、書き残すとは思えません。
それともループが実はもっと早くから始まっていて、無間地獄の後にアレを残すフェーズがあったんでしょうか。真相がどこに辿り着くにしろ、基本的には気にしなければ何も起きないことは事実ですからね。

京先輩周りについての解釈も難しく、冒頭はほぼ間違いなく京先輩を指しているはずですが、その場合でも解釈は分かれます。おおむね、京先輩は普通に自殺し、この件とは無関係であってアレはただの演出である、という解釈と、京先輩は入れ替わったが記憶が無いので無間地獄に囚われている、という解釈の双方が可能です。
どっちに転んだとしても、その自覚がないものが過去の所業に囚われて無限の苦しみを味わい続けているので、ある意味ではどっちでも変わらないとも取れるかもしれません。

こういう要素について、もやもやとするとか、考察の余地とするかは人に寄りそうですが、個人的にはややもやもやよりなのかなと感じています。視点がそもそも信頼できない語り手の時点で、曖昧な部分が発生するのはやむを得ないところではありそうです。
ただ、メインの主人公の境遇と末路に関しては解釈が分かりやすく二分され、そのどちらかは分からない、という終わり方をするので、ある意味ではこのような事実の重なり合いを観測するという旨のゲームとも言えるかもしれません。

ちなみに余談として、筆者はホラーにはそこそこ耐性があるんですが、カッターみたいな現実的な痛みを読んでると若干むずむずして辛くなります。あのシーンは、どのシーンよりも目を細めてしまいました。多分想像できる痛みがしんどいんだと思います。