第17回ウディコン全作品レビュー - しかきたん-オカルトノート寧楽奇譚-
48. しかきたん-オカルトノート寧楽奇譚-
| ジャンル | 作者 |
|---|---|
| ポイントクリック & ノベル | カッパ永久寺 |
| プレイ時間 | プレイVer | クリア状況 |
|---|---|---|
| 3時間 | 1.00 | クリア |
良かった点
- オカルトとミステリという相反する要素を上手く混ぜたシナリオでした
- 双方とも質が高いです
- 地道に推理を積み重ねる堅実な設計となっています
- 奈良というロケーションを十全に活かしていました
気になった点
- 画面遷移系の処理がやや重く感じました
レビュー
Deer you
しかきたん-オカルトノート寧楽奇譚-は、ミステリとオカルトが渾然一体となった濃厚なシナリオが展開するアドベンチャーゲームです。
呪術探偵見習いの主人公マロンが、友人ヨウカや奈良で出会ったシカ娘カマコの力を借りつつ、赤い手にまつわる怪奇事件を調査していくことになります。
その軸となるシナリオは推理ものとして堅実であり、謎に対しての仮説や調査を通して真相を探っていくポピュラーなものとなっています。周囲に何一つ高所がない芝生の真ん中で、赤い手によって空から落とされた――そういった不可思議な状況に対し、蓋然性の高い推理で一つ一つの謎を紐解いていきましょう。
一見すれば赤い手というオカルトによる事件のように見える展開ですが、この世にオカルトは存在していても、不思議なことのすべてがオカルトではありません。奇妙な事件の不思議なことを紐解く鍵は、舞台となっている奈良のあちこちに遍在しています。各地を観光がてら巡り歩き、真実に辿り着くための情報を集めていきましょう。
さらに、この作品ではそうした骨太の推理パートに併せて、古代史的なオカルトが巧妙に混ぜ合わされています。不思議なことのすべてがオカルトでなかったとしても、この世に確かにオカルトは存在します。論理を武器にした推理だけでは太刀打ちできない怪奇には、そのオカルトで立ち向かうほかありません。
そうしたマロンやカマコによるオカルト的な活躍もまた、本作のシナリオにおける重要な立ち位置を占めていると言えるでしょう。
こうして、しかきたんはミステリ要素による堅実なシナリオ展開と、オカルト要素によるエンターテインメント性の高いシナリオ展開が縦横無尽に入り乱れる作品となっています。一見相反するそれらの要素を魅力的なキャラクターを軸に上手く描け合わせ、より高いレベルの物語へと昇華させている作品となっています。
その交互浴のような緩急ある展開のおかげで、最後まで飽きずに読み進められるであろうこと疑いありません。
歴史ある奈良の地を巡り、事件に対する仮説を立てては証拠を集め、古代史とミステリとオカルトが混ざり合う複雑な物語を紐解いていきましょう。
感想
オカルト要素を中心に据えつつ、ミステリそのものはきちんと論理の上で構築している良いゲームでした。相反する要素に見えるんですが、オカルトそれ自体も割と論理的というか歴史に紐づいた理屈っぽいところがあるので、意外と相似なものなのかもしれません。
オカルトノートでもそうだったんですが、現実には論理を、非現実にはオカルトを当てる構成の完成度がいずれも高く、どちらも楽しむことのできる作品となっていました。AにはAに向いた話、BにはBにふさわしい任務がありますからね。
ひとまずシナリオについて。全編を通して見ると、フックやエンタメ的な部分を除くとかなり真面目に調査、推理を行っていく推理ものの様相を呈しています。設定だけ見ると特殊設定ミステリっぽいんですが、オカルトはほぼ推理に絡まないのでかなり純粋な推理ものとして仕上がっています。
論理を基に蓋然性の高い推論を繰り返し、証拠を集めるために東奔西走し、少しずつ真相へと迫っていく構成はかなり骨太なものとなっていました。ここだけでも読み物として充実しています。恐らくこの推理パートだけを取り出してノベルゲームとして構成しても、十分ゲームとして成立するクオリティになっていると思われます。
その上で、その良質な推理ものとしての物語にオカルト要素、奈良というロケーションに基づく要素、歴史的要素を上手く肉付けし、エンターテインメントとしてより楽しめる物語へと昇華させています。登場人物についても愉快なキャラクターが多く、堅い側面のある推理ものという本筋を柔らかくしてくれていました。
全体を通して、堅実なプロットの設計に対してエンタメ的な厚みを持たせたような作品に仕上がっています。前者のおかげで物語に対するしっかりとした満足感がありますし、後者のおかげで消化しやすくそれらを摂取できるようになっていました。
このため、探索アドベンチャーもとい推理要素についてはかなりオーソドックスな設計となっています。あくまでも論理で詰め、仮説を立てては立証を進め、どこかが足りなければそれを補足しにいく、推理の道筋がきちんと立っている構成となっています。ともすれば地味とすら言えるほど堅実な設計をしているんですが、そこは他の部分でエンタメ成分を確保しているので気になりません。
トリック自体も意外性を持ちつつも無理筋ではない自然なものとなっていて、その解き方もまたシンプルなものとなっています。このため、最後の推理パートはほぼおさらいの形になりますが、最後の最後にちゃんと推測すべき対象が出てくるので、結局おさらいも大事ではあります。思考の道筋を立てさせてくれているのでしょう。
なお余談ですが、謎の落下死と言えばミステリには色々と作例があり、個人的には赤川次郎の三毛猫ホームズにおけるそれが割と好きです。この事件を見て真っ先に思い出してしまいました。
閑話休題。筆者個人としては推理小説が好きなので、全体を通した骨太な推理パートが最も好みなんですが、それはそれとしてクライマックスのドラマ性もまた違った意味で好きなパートとなっています。そういうノリの作品である以上、派手な方が読後感が良かったです。なお、筆者は祝詞を読み上げながら進めていたため、アレは一発で通せました。そういう趣味があって良かった。
また、最後の最後にDeer My Friendで終わるのもこの作品らしくて良かったです。シカへの飽くなきこだわりは何なんだろう。
ちなみに、文章を読む上での微妙に気になるどうでもいい点として、一人称がマロのキャラクターとマロンというキャラクターが共存している点が挙げられます。割とややこしい。双方とも珍しいパターンであり、完全に事故ではあります。
一方で、システム面で見ると、個人的にはUIの反応の悪さが気になりました。とりわけ、画面遷移系の処理の重さが気になっており、微妙に体感を損ねているところがあります。単なるピクチャ表示系でウディタがこれほど重くなるのはあんまり見たことがないので、多分何かしら裏処理をしているような気はしますが。
また、右クリックの文字送りがあまり上手くいかないケースが多く、基本的にスクロールで行う方が安定するという謎の現象もありました。筆者の環境問題かもしれない。
ともかく、ミステリとしてもエンタメとしてもクオリティの高いシナリオが楽しめる作品となっていました。ミステリ好きとしては非常に楽しめて良かったです。また、前作から引き続きキャラクターのいずれも魅力的なので、また次回作を見たくなる気分にさせてくれました。
なお、筆者は下手人をなぜか赤い手が見えていた観光客で回収するのかと思っていたので、その点では微妙に推理を外していました。確かに、そちらの方が次の展開が面白そうですね。