第14回ウディコン全作品レビュー - フィッシュ・フックは涙しないRE
29. フィッシュ・フックは涙しないRE
ジャンル | 作者 |
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探索ADV | トウヤ イユキ |
プレイ時間 | プレイVer | クリア状況 |
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2時間 | 1.04 | 全ENDクリア |
良かった点
- 全体的に探索ADVとしてのクオリティが高いです
- 導線がかなり優しいので詰まることは無さそうです
- シナリオのギミックが上手く作用していました
気になった点
- 第二世界の位置取りがやや説明的っぽくはあります
レビュー
ハイクオリティADV
フィッシュ・フックは涙しないREは、あらゆる要素の品質が高い探索アドベンチャーです。
このジャンルとしてはオーソドックスで奇をてらったところのない設計ながら、演出の質からシナリオの構成、行き届いた導線の配慮まで、全てが高い水準で形成されています。
この物語は、悪魔はびこる世界に迷い込んだ人々を、ツリバリ君と呼ばれる人物が助けるお話から始まります。閉じ込められた洋館を主な舞台として、脱出のために謎解きや探索を行っていきましょう。
謎解きは導線が丁寧であるため、スムーズに進めることができるでしょう。また、迷った場合はヒントを利用して解くこともできます。
そうして洋館を探索して進むうちに迷い込んだ人々の事情が明らかとなり、物語は一つの終わりを迎えます。その後は場面を変え、物語はさらに主人公たちへフォーカスして進行していくことになります。
ツリバリ君とは何者なのか、彼らに何があったのか、物語を進めていくことでその真実に迫ってみましょう。
こうした一つ一つの物語は丁寧に描かれており、さらに適所で差し込まれる良質なグラフィックと、それを最大限に活用した演出でもって、より引き立てられています。ストーリーをより深く味わうことができるでしょう。
様々な要素を高いレベルで練り上げた、高品質なアドベンチャーとその物語を体験したいのであれば、お勧めの作品と言えます。
感想
クオリティが高いし、ちゃんと丁寧に作られていることが分かるADVです。
グラフィックとか、操作性とか、そういう一個一個の点のクオリティが高いという話ではなくて、総合的な面での品質が高いというレベル。
とりあえず世界観というかグラフィックに近い話になるんですが、各セクションで色々と印象を変えてきているのが良いです。
最初は洋館、次に白黒、最後に心象と、良い感じにロケーションが移り変わります。
その上で、やたら洋館で鮮やかに見えていた緑色の意味を白黒世界で理解したり、そこまでの流れをもってして心象に移ったりと、ちゃんと流れが継続しているのも良いです。白黒世界はやや位置取りが説明的なところもありますが、全体を通してみるとギミックを仕込む閑話という印象です。
細かいレベルで言えば、異界でメニューを開くと後ろにノイズが入る表現とかも好きです。こういう細かいところの演出が全体の丁寧な雰囲気を形作っています。
システム面でもかなり丁寧に作られていて、探索ものにもかかわらずメニュー画面を開く頻度がかなり低かったです。要するに、アイテムを確認したりする手間が極端に少ないと言えます。
大体は指示、あるいは想像した通りに動けばそのまま解決していくので、あんまり苦労することはありません。万一詰まっても、Talkが結構有用みたいなので、謎解きが苦手でもなんとかなりそうです。
QTEについては、探索ばっかりだと飽きるからくらいのフレーバー要素で、強いアクション性は要求されません。
また、序盤のCキー連打なんかは二度要求されることが無かったり、本当に細かい所にも配慮が行き届いています。
シナリオも良くて、ツリバリ君のギミックを軸にうまく左右に振っている印象でした。
最初は消去法でジンか画面の前のあなたあたりかと思わせておきつつ、二つ目であっさり登場させて容姿を変えてミスリードしつつ、最後の展開でジンがツバキに見えていないことをもって最終エンドにつなげるあたりの構成が上手いです。
あとタイトル通り、最後までフィッシュフックは涙せずに笑顔でしたね。タイトル回収される作品は良い作品。
またマウス操作というシステム設計も、ある程度は傍観者的立ち位置であるツリバリ君やらツリビトにマッチしていて良かったです。この物語はツリバリ君になる物語ではありませんが、プレイヤーのメタ的な干渉に対しての理由付けとしてうまく機能しているという面で優れています。
システムと物語はマッチしている必要があるという強い思想は別にはないんですが、マッチしていたらそれはそれで良いものです。
さらに細かいところで言うと、陰口が叩かれる通路を歩くシーンが割と好きです。悪口で舗装された通路を作るというのはこの手の探索ものあるあるという趣があるんですが、このゲームではその悪口ルートが単なる悪口の列挙じゃなくて、それに反論する奴、反論する奴を嘲笑する奴、ある程度中立でいようとする奴を入れているあたりが、細かいリアリティだなあと感じていました。
現実的に全員敵というのはあんまりなくて、少数の敵とある程度の同調者と多くの無関心があるだけなんですね。
また、エンディングに応じて曲や演出が変わるのも面白いです。
やはり周回系ゲームのエンディングのエンドロールは何度も見たものになってしまうので、トゥルーにだけ入れるというパターンもあるんですが、これはちゃんと全部違うものを見せようという気持ちがあります。
キャラクターもめいめいが良いキャラをしていました。グラフィックの品質が良いことはもちろん寄与しているんですが、短い中でちゃんとどういうキャラクターなのかを描写している能力もまた寄与しています。
しかしチシヤという名前は、どうしてもチェシャを思い出してしまうし、どうしても今際の国のアリスを思い出してしまいますね。
ちなみに、どうでもいい話になるんですが、フォントの関係でセロテープのロが伏字に見えていました。商標だっけみたいな気持ちになった。