第17回ウディコン全作品レビュー - 月下美人狂詩曲

02. 月下美人狂詩曲

ジャンル 作者
アドベンチャー すたーあいす*
プレイ時間 プレイVer クリア状況
1時間+α 1.00 全END

良かった点

  • ゲームボリュームに対してテキストが十分用意されていました
    • コマンドごとのテキストまでユニークです
  • 周回を行いやすいシステムとなっています
    • 選択肢の位置保存、バックログの完備、セーブロードのしやすさなどが整っていました
  • ミニゲームが良いアクセントとなっていました

気になった点

  • テーマに比して、言葉遣いがやや軽いのは気になりました
    • 対峙している対象は巨悪かのようにふるまう小悪党であるという表現なのかもしれません

レビュー

蝶への変態

月下美人狂詩曲は、ステータスを上げてオーディションを成功させつつ、トップモデルへと成長していくシナリオが進行していくアドベンチャーゲームです。
選択肢やコマンドを選ぶことでゲームが進む形式を取っており、全体としてはシナリオが中心のゲーム性となっています。

このゲームは基本的に、4つのコマンドを選んでステータスを増減させていくパートと、オーディションなどの本番パートに分かれています。
前半の成長パートは、選択したコマンドに基づきパラメータが変化していくものです。運動すれば体力が上がり、会話すれば対話が上がり、勉強すれば知能が上がり、休憩すれば運気が上がるといった具合になっています。また、これらの選択肢に応じた各ステータスの増減幅はあらかじめ表示されているため、成長の計画を立てることができるようになっています。
バランスよく成長させるも、特化で成長させるも、思いのままに育てていきましょう。

そうして成長させた後の後半パートは、鍛え上げたパラメータを用いて問答に答えていく形式となっています。
例えば、志望動機を話すなら対話力がカギを握りますし、ファッションブランドについて問われるなら知能が必要です。質問に対する各選択肢は対象パラメータに応じて成功確率が定まり、そのパラメータが高ければハイリスクハイリターンな受け答えでも高い確率で成功できるようになっています。
前半パートで良く鍛えたパラメータにまつわる話題はハイリターンな選択を取り、弱いパラメータは安定択を取るなど、自分に合った選択をしていきましょう。

そうしてオーディションなどを勝ち抜いていくことで、少しずつトップモデルへの道が開けていきます。
しかし、その世界は決して華やかなばかりの世界ではありません。ひたすらトップへと上り詰めていく過程で、主人公たちはセンシティブな闇へと足を踏み入れることになります。地を這う芋虫だった主人公が蝶となり、やがてその先へと至る中でそれらにどう立ち向かっていくのか、あらゆるものに勝ち抜いてその物語を見届けていきましょう。

シンプルなシステムと短い構成に対し、コマンド選択ごとの反応がそれぞれ固有であるなど、十分な量のテキストが用意された密度の高い作品となっています。エンディングの種別も20まで存在し、それぞれ相異なる様々な結末を見ることができるでしょう。
その上で、周回をしやすい設計でもあるため、各エンディングをそれぞれ迎えることも手軽なものとなっています。是非とも全てのエンディングを観測し、物語のその終わりを見届けていきましょう。

感想

アドベンチャーとしてテキスト量が十分にあるゲームでした。ゲーム規模自体は短編に属するレベルですが、それに対して用意されているテキスト量が多めです。それは単にノベルパートが十分ある事や、エンディング分岐が20あるということに接続するところもあるんですが、それに加えてコマンド選択時の反応のバラエティが豊富というところも特筆したい部分になります。
こういったパラメータ成長系コマンドは、少なければ2、3程度、多くとも10パターン前後の汎用台詞を上手く使う印象があるんですが、このゲームは恐らく汎用が一切ありません。利用数の限界まで異なるテキストを用意しています。このゲームにおいては極端にコマンドが偏るとバッドエンドに直行するんですが、それぞれのバッドエンドへ向かうための下地をこのコマンドの中に用意された文章だけで上手く構成していました。もはやここだけでも短く物語を作っています。

それに加えて、シナリオそれ自体においてはエンディング分岐というべきは高々2つ程度に抑え、その分しっかりとした物語が構築されています。コンパクトにまとまったコマンドから展開するエンディングを枝葉に持ちつつ、幹となるシナリオはきちんと太く作るというバランス感覚に優れた構成となっていました。
いずれの分岐に進んだとしても闇の深いシナリオなんですが、とりわけトゥルー側の闇が深いです。アナザーはあり得た未来くらいのニュアンスだと受け取っているので、こっちが正史なのかなと勝手に想像しているんですが。
一方で、社会派的なテーマを取り扱いつつも、登場人物の言葉が軽いのが個人的には気になっています。芸能界ってこういうものなんでしょうか。それなりの立場でも正義マンって語彙が捻出されるものなのか。やってることの陰湿さに対しての、当人の意識の軽さみたいなものを描いているのかもしれません。
トップモデルを枕に誘うというのも微妙に現実味が無いという印象が無いでもないんですが、事実は小説よりも奇なりな出来事が頻出する昨今においては、リアリティラインなんてあってないようなものなのかもしれません。他方、椿が消えるのは悲しいながらもリアリティに繋がっている気はしました。

モチーフとしている花、あるいは芋虫ないしは蝶というものについての捉え方は色々とありそうな印象を受けます。蝶は花の蜜を吸うという方向性から受け取ることもできますし、花は蝶を利用して自己を繁栄させていくという方向性からも受け取れます。個人的には後者よりな印象があるんですが、そうなると4章で主人公が花になる事との整合性が取れなくなるので、微妙にずれた解釈をしている気もしています。もっとシンプルに、成長あるいは変身のメタファーなのかもしれません。蝶野攻爵みたいなもん。
花それ自体の意味を使ってキャラクター性を表している部分は面白く、その花にたいする印象でもってあまり知らないキャラクターの個性というか性質を受け入れやすくなっていました。短編でそこそこキャラクターが出るんですが、顔に引っ張られない分キャラを覚えやすいというメリットもあるかもしれない。

なお、ゲーム性の面については、筆者がノーマルでプレイした印象になりますが、運ゲーのようでいて基本的にはクリアできるバランスに感じていました。全てが選択肢パートで構成される最初のオーディションだけ本当に運が悪いと怪しいのかもしれませんが、それでも意図してゲームオーバーにするのが難しい程度には平易です。アドリブ抜きでも割と何とかなる。
とはいえ各パラメータをちゃんと振り、ある程度のリスクリターンを考えて選択を進める必要があるので、単なる選択肢を選ばせるアドベンチャーっぽいものよりは緊張感があって良かったです。最後の演出にもつながりますしね。
加えて、2章以降からミニゲームが挟まるのも良いアクセントとなっています。これのおかげで、単純作業っぽい印象や運ゲーっぽい印象から離すことにもなっています。そのバラエティも割とありますし、総決算っぽくまとめているパートがあるのも良いところです。

また、エンディングが多数あるゲーム性ながら、それらを回収しやすい構造になっているのも良かったです。2周目をやるのがそれほど苦ではない。
中でも日数をまたいでも選択肢が維持される機能が便利で、各エンドの回収の際にいちいちカーソルを動かさなくても良いようになっています。適当に連打していてテキストを見逃した際にバックログで遡れるのも秀逸でした。全体的に、エンディング回収をやる上で必要な機能が揃っている印象がありました。

全体的に病んだというか心に何かを抱えている人物しか出てこないシナリオではあるので、どう足掻いても八方丸く収まるめでたきハッピーエンドにはならない作品となっています。そういう気概を感じる。とはいえ、取れる範囲の選択を取り、因果は応報される終わり方を示しているので、もやもやする終わり方ではありませんでした。
なお、ED20分岐条件だけは割と明示的ではないのでその辺だけ苦労するんですが、ED19の文言が一応ヒントにはなっているので、回収自体はそこまで難しくなさそうです。普通にプレイしていると恐らくED19を踏むことになるので、最後にED20をやって少しは清々しく終わってほしいという作者さんの気遣いなのかもしれません。全てが全て理想的に終わるわけではないんですが、それでも一つの終わりとなってはくれます。もっとも、筆者の解釈上はあり得た未来でしかないと考えてはいますが。穿ち過ぎかもしれない。
しかし登場人物にとって一番良かったエンディング、なんやかんやED1の可能性はあるかもしれません。搾取は止められないので周りにとって良いかはともかく。筋肉があれば、もしかしたら正面から止められる未来もあり得るんだろうか。

なお、このゲームをやったうえでの筆者の最大の疑問は、カレーへの執着でした。なんでそんなにカレーに言及しているんだろう。製作中にいっぱい食べたんでしょうか。