第17回ウディコン全作品レビュー - 雨を乞う弔鐘

34. 雨を乞う弔鐘

ジャンル 作者
探索ADV もっともやし
プレイ時間 プレイVer クリア状況
40分 + 3時間 1.03 ED13+1+2

良かった点

  • 全体を通して丁寧に作り込まれた作品でした
    • 細かいレベルで分岐、スチル、イベントが豊富です
  • いずれのキャラクターも魅力的でした
  • グラフィックやUIにより統一された雰囲気が良いです

気になった点

  • 特にありません

レビュー

バケモノたちとの四日間

神は細部に宿るものです。しかし、細部に宿らせた神に目を向けさせるためには、まず何よりも全体の完成度が高い必要があるでしょう。ノイズの無い高品質な幹があってこそ、作り込まれた枝葉にまで意識が向くことになります。
雨を乞う弔鐘は、その条件を十全に満たした作品となっています。ハイレベルなグラフィックと魅力的なキャラクターから成る高い完成度を誇るゲーム性を味わった上で、様々な選択肢と数多くの分岐という神を認めることができるでしょう。

そのベースとなるゲームシステムは、会話のやり取りをメインとした探索アドベンチャーとなっています。
六匹の相異なるバケモノが住まう館に召喚された人間である主人公を操作して進めていく、四日間の交流を描いた作品となっています。

ゲームを進めていくためには、館の中で活動しているそれぞれのキャラクターに話しかけていくことが必要になります。そうすることで時間が経過していき、一定時間が過ぎると夜になり、寝れば朝になります。基本的にはこの繰り返しで四日間を過ごすことになるでしょう。
そうして交流するキャラクターは個性豊かなバケモノばかりです。気弱そうな異形のオニヤンマ、フレンドリーな吸血鬼ミミズとその兄であり粗野な雰囲気を持つムカデ、オドオドしたメイドアロエ、明るい鬼アキアカネ、つかみどころのない悪魔サソリ、そういった様々なバケモノと交流をしていくことで、それぞれのパーソナリティが分かってくることでしょう。のみならず、探索や交流を適切に進めていくことができれば、この館に秘められた謎も明らかになるかもしれません。
色々なキャラと積極的に話してそのバケモノとなりを知るも良し、色々と嗅ぎまわって秘密に迫るも良し、様々な行動を取ってみることをお勧めします。そうして過ごした日々によって、13種と追加でいくつかあるエンディングに分岐していくことになるためです。一周となる四日間は短いので、周回はさほど苦にはならないでしょう。

ただし、この作品はエンディング以外にも多数の分岐が存在します。選択肢によるものから時間に伴う細かいものまで多数の分岐が存在し、それぞれにはイベントがいくつも用意されています。それらもまた、各キャラの個性を知る上では見逃せないものとなるでしょう。
何度周回しても周回しすぎるということはありません。エンディングの分岐に限らず色々な行動を試していくことで、各々のキャラクターの魅力の一端に触れることができるでしょう。

また、そうした密度の濃いシナリオを彩るのは高レベルなグラフィックとなります。それぞれのクオリティもさることながら、細かいイベントであっても、あるいはシリアスでもコメディでも差し挟まれる数多くのスチルは物語の雰囲気に強く影響を与えています。その数の多さたるや、あるタイミングで任意に獲得できるメガネの差分すら用意されている徹底振りです。
丁寧かつバリエーション豊かに用意されたイベントとスチルの数々により、その物語はよりプレイヤーを惹き付けるであろうこと疑いありません。加えて、常時見ることになるUIまでもが洗練されているため、常に作品の空気感に没頭できることでしょう。

全てにおいて丁寧に作り込まれ、微に入り細を穿つ高品質な作品となっています。探索アドベンチャーを好んでいれば、プレイして間違いはない作品と言えるでしょう。
是非とも探索と交流を進め、バケモノたちの辿る結末を見届けていきましょう。

感想

丁寧に細部まで作られた探索アドベンチャーでした。とりわけ分岐が非常に多く、エンディングの分岐にかかわらないところにまで細かく手が回されています。書斎への入り方によっては聞き耳を立てることになる、レベルでの分岐がそこかしこに散りばめられていました。作りが細かい。
筆者は選択肢分岐については概ねさらったと思いますが、細々とした分岐条件をすべて拾えた自信はありません。作り込みというかイベントの密度が凄まじい作品でした。

個人的には回数制限や時間制限により物語を複数回遊ばせる仕組みをそれほど好いているわけではないのですが、このゲームに関してはこれ以上なくマッチしたシステムに感じています。というのも、一回のプレイで遊び尽くせないがしっかりと一つの終わりには到達するという感覚を得られるシナリオの上で、些細な違いに対してレスポンスが返ってくることから能動的に色々試したくなる設計を構築しているためです。
双方を担保しているのは、先立って触れた分岐やイベントの多さです。筆者は探索好きなので、とりあえず端から端まで調べようと思って始めましたが、そうなると上の階だけで3日目に行けてしまいます。調べられる事柄が多い。このため、アキアカネに会うことなくアキアカネに食べられるエンディングに到達してしまいました。

このように、単純にクリアするだけではキャラクターのことを十全に知ることがほぼ不可能なため、自動的に周回を重ねてキャラクターのことを知っていこうというモチベーションが湧く構造となっています。
もちろん、これが成立しているのは各キャラクターが魅力的であるという点に依拠しています。それは第一印象を含めたキャラ立ちの良さもさることながら、やはり綺麗なイラストの効果も無視できないものとなっているでしょう。それぞれのバケモノのビジュアルが非常に良いです。オニヤンマの見目が特に強烈。

そうして各キャラクターを追いかけていくうちに、様々な分岐に辿り着き、その時々におけるめいめいの状況や考えていたことを知っていくという流れは、能動的にシナリオを体験できる設計として秀逸でした。この手のゲームは一本道で読むゲームであるパターンが多い印象があるんですが、この作品は分岐を自らの手で辿っていき物語を埋めていくような楽しさがあるものとなっています。こういうのも好き。
加えて、要所でスチルが入ったりイベントが入ったりと、エンディング分岐そのものに関係ないものですら分岐の先が用意されている点も素晴らしく、始まりから終わりまでが常に異なる線で結ばれているような体験を得られます。
例えば、筆者は初めメガネを借りパクしたまま脱出ルートに入ったのですが、あまりにも自然にスチルにメガネがあるので一切違和感を感じずにクリアしてしまいました。こういう細かいところにすら、少しでも印象が異なるように手が入っています。神は細部に宿るの言葉通り、こうした微に入り細を穿つような作り込みが物語の雰囲気を強く醸成しているように思います。

また、各キャラクターが魅力的なことに加え、主人公が良い性格をしているのも面白い所です。会話主体のゲーム性をしている以上、基本的には主人公と各キャラクターのやり取りが主体になってくるので、常にいる片方もまた面白いキャラクター性をしているということは割と重要なんだなと感じました。
この主人公、選択肢と状況によってはサソリが真横に居ようがお構いなしにピッキングをかまします。豪胆に過ぎる。メガネ借りパクするくらいですからね。

ちなみに、筆者が一番好きだったキャラクターはオニヤンマでした。先述の通り一番ビジュアルが鮮烈であるという第一印象の強さもあるんですが、会話を重ねて色々なエンディングを見ていく上で感じるそのアンバランスさも良い味がありました。アキアカネが全容を知らないというのもミソで、ああいう雰囲気でどこまでもエゴイストであることが良く分かります。個人的にはほぼ裏主人公格のように感じていました。童話のモチーフについても主人公っぽくなるようにミスリードした上で、実際はただただオニヤンマの話をしているようですし、そもそも後記が明確にそういうものなので。
次点でアロエも好きでした。六匹のバケモノと表現されていることに対し、アロエは特に化け物っぽくないので最初は違和感があったのですが、特定のエンディングを見たことで腹落ちしました。化け物とは見た目云々ではなく、その性質なのかもしれません。あるいはもはや化け物でなくてはここに居られないのかもしれませんが。

また、各エンディング分岐についても触れておくと、どのエンドにおいても救いなんてものはないのが良いです。絶望に絶望を塗り重ね続けている現在に対し、生半な救いを用意したところで意味はありません。あるいは、ちゃんと何らかの形でピリオドが打たれること自体が救いなのかもしれませんが。
初めのうちは作中で少し触れられる神父あたりが何らかの救いとされるのかもなと考えていましたが、そんなことは無く怪物が怪物に殺されていく終わりは象徴的ですらあります。ヒーローなんていない。
なお、個人的には雨を乞う弔鐘という贄の鐘の音とともにエンディングに突入していく演出も好みでした。単純に区切りとして分かりやすく、かつ象徴的で、世界観との調和も取れています。

個人的にはエンディングの中では、2-2が一番好みです。先述したアロエのエンディングであり、人間と化け物の間に引かれる一つの線引きを示しています。起きている事象としては2-3と変わらないんですが、手を下すという行為そのものが入り口として描かれているというのが良いです。直接手を下すことを好まない悪魔との対比もあるのかもしれません。あるいは直接手を下すことで現在に至るオニヤンマとの相似を意味しているのかもしれません。
ともあれ、この作品は作中で言及されたようにトロッコ問題であり、このエンディングはその分かりやすい一つの事例ではあります。どちらにとっても、線路に転がされているのは自分ということになりそうですが。

話題を変えてシステム面の話について。下を埋め尽くすようにあるUIが良いです。最初の内は見た目の圧迫感を感じていましたが、慣れてくるとゲームの雰囲気を高めつつ、必要十分な情報を常に見せてくれるUIとして優秀であるということが分かりました。このゲームにおいて必要な情報はほぼここに書かれています。
その分サイズが大きく、画面を占めて邪魔になりそうという問題についても、マップ構造で下方の余白を上手く取ることで解決しています。狭いマップなので、その全てをケアすればこれくらい大胆なUIにしても問題ないというのは面白いです。思い切りが良い。

また、先立っても軽く言及しましたが、グラフィックが高品質なこともまた本作における魅力になります。それは物語への没入感を高めるとともに、それぞれのエンディングやイベントに対する興味関心を引き立てる役割も担っています。
祈りの所作について触れているオニヤンマの祈りのポーズといったような宗教画的美しさのあるものから、普通に殺害してくるムカデに対してコミカルに怒っている人外ズというコメディタッチでシュールに感じるイラストまで、幅広く取り揃えられているというのも良いところです。色遣いとか構図も良い。

とにかく全体的に一貫して高品質かつ丁寧な作品となっていて、何度も遊んで様々な分岐を試してみたくなる作品でした。
なお、筆者はすべての選択肢分岐をセーブロードも駆使しながら拾い集めていたので、上記にあるプレイ時間はやや長めに取られているものです。恐らく全エンディングだけでよいなら、もう少し短く達成できると思います。